第二話「鳩と笛」



 外の世界で自分は、誕生日プレゼントの青いリュックサックと小説の入ったバックを持って宛もなく歩いていた。

 頭痛はまだ続いている。これからどうすればいいんだろうか。そんなことを思いながら歩き続けていた。




 歩き続けていると、森を抜けた。草原が広がる先にビルが立ち並んでいる。草原の周りを見ると、怪物がちらほらと見えていた。

「だ、誰か......」

どこからか、か細い声が聞こえた。


 声の聞こえた方を見ると、男の人が倒れていた。男の人が探検帽を被っているのを見て、自分は冒険小説の挿し絵を思い出した。

「み、水......」

男は何かを求めるように呟いた。

 自分は青いリュックサックの中身を次々と取り出した。水筒を見つけた時、男の人はそれを奪いとり、ごくごくと飲み始めた。


「......生き返っっったあああああああああああ!!!」


 男の人はいきなり立ち上がり、雄叫びを上げた。




「いやあありがとうありがとうありがとう!!たまたま通りかかった勇気ある君のおかげで私は九死に一生を得たああああ!!本当にありがとうありがとうありがとう!!私は世界を又にかける冒険家タケマルと言うものだあ!!私は君の事を一生忘れないぞおおおお!!それではさらばだああああああ!!」

男の人はひたすら早口で一方的にしゃべって、そのまま去って行った。


 しばらくして、タケ......なんとかさんはこちらに戻ってきた。

「いけないいけない!これは私からのお礼だ!!それでは今度こそさらばだああ!!」

そういって自分に何枚かの紙切れを渡して去っていった。


 自分は、タケなんとかさんにもらった紙切れを見た。「1000」と書かれており、見たことない人の顔が描かれている。それと同じものが三枚あった。

 ひとまず、三枚の紙切れを取り出したものと一緒に、リュックサックに入れ込んだ。


 ......これからどうすればいいんだろう。




 何も解らずに、自分はビルの立ち並ぶ街の前に立っていた。街の前に門のようなものがあり、その前に人が二人立っていた。

 自分は門をくくったが、二人は何も言わなかった。


 街はビルが立ち並んでおり、たくさんの人が歩いていた。自分はあちこちと意味もなく歩き続けた。




「ここのホテル、チョー快適だったよねー」

建物から、若い男の人と女の人が出てきた。

 どうやら、ここがホテルという施設らしい。

 冒険小説で、主人公がホテルに泊まるシーンを呼んだことがあった。きっとここで泊まることができるはずだ。




 ホテルの中、自分は受付に近づいた。

「あ、ねえ君、パパとママは?」

女の人が話しかけてきた。

 パパとママはきっとお父さんとお母さんのことだ。でも、自分にはそう呼べる人がいなかった。

 自分が黙り続けていると、女の人が再び話しかけてきた。

「君、もしかして旅人?」

旅人?

「旅人だったら、旅免許を見せてくれるかな?」

何を聞かれているのか解らない。


 自分はそのままホテルから逃げるように去って行った。




 再び街の中を歩いていると、噴水のある広場のような場所を見つけた。人々の他に、たくさんの鳩が鳴きながら、それぞれバラバラに歩き回っているのも見える。

 自分が座り込もうとした時、どこからか笛のような音が聞こえてきた。鳩たちは笛の音につられるように、一塊になって歩いている......

 追いかけると、帽子を被ったおじいさんが笛を吹いていた。鳩は笛の音につられて動き、野生の鳩とは思えない芸を始めた。


 ふと気がつくと、見物しにきた人々が周りに集まっていた。そんな中でも、おじいさんは周りを気にする様子もなく、ただ笛を吹き続けていた。




 頭痛が収まったころ、すでに夕方になった。おじいさんは頭の帽子を手にとり、お辞儀した。

 周りの見物客はコインのような物を投げていた。中には、街の外でタケなんとかさんがくれた紙切れを落としている人もいた。

 鳩たちはもうすでにあちこちに散らばっていった。


 見物客が去った後、自分も紙切れを落としておいたほうがいいと思い、青いリュックを開けた。

「そこのお嬢さん、旅人かのう?」

おじいさんが話しかけてきた。自分は訳も解らずに首をふった。

「それじゃあ、そのリュックの中身はなんだね?」

おじいさんは青いリュックの中にある、カードのような物を指して言った。


 自分はカードを取り出した。そのカードには、自分の顔写真が写っている。

「お嬢さん、もしかして、旅免許のことがよくわかっていないのですかのう?」

自分は頷いた。

「そうか......それは旅人を示す証明書のようなものじゃ。それがなくても旅は出来ないことはないが、あると何かと便利なものじゃ」

自分は再びカードを見つめて、首を傾げた。

「どうやら、旅のことも知らない箱入り娘のようじゃのう......お嬢さん、もしよかったらわしに旅人の常識を教えさせてくれないかのう?」

自分は再び頷いた。

「よし、わしの名前は"サカノ"というものじゃ。お嬢さんの名前は?」

自分は何もしゃべらずに、特殊な力でサカノさんに名前を伝えた。

「......そうか、お嬢さんは......いや、何でもない。とにかくユウちゃん、早速始めるとするかのう」


 サカノさんはポケットから紙を取りだし、鉛筆で何かを書き始めた。

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