第8話 絶対防御

氷継ひつぎィィィィ!!!」


 放出されたエネルギー体から逃れた優奈ゆうだいが力一杯叫ぶ。今も尚、氷継ひつぎがいた場所には高出力のエネルギー体が放たれた続けている。


「八坂君!!!!」


 輝夜かぐやは【天誓てんせい】と共に氷継ひつぎの元へ駆け出そうとするが、郷花きょうか歌織かおりによって捕らえられ、そのまま地面に押さえつけられる。バタバタと踠きその場から脱しようとする。


「行っちゃ駄目、天宮あまみやさん。残念だけどもう…………」


「動かないで、輝夜かぐや!!私達じゃ……どうにもできない!!!」


「離して……離してよお!!!」


 泣き叫ぶ声が空中へ霧散する。”最強の息子“で勝てないなら自分達にはどうすることもできない、そんな気持ちがこの場にいる全員の心を駆け巡る。泣き叫ぶ者。絶望する者。そんな声すら遮るように放たれた続けるエネルギー体。


 ───待て、何故そこまで打ち続ける必要があるんだ…………?


 優奈ゆうだいは疑問を感じた。あれ程のエーテルを凝縮させた高火力を掠めるだけでも危ういのに、それを”直撃“させたのにも関わらず放出させ続ける理由がない。そして、優奈ゆうだいがたどり着いた一つの結論が─────


 ───氷継ひつぎはまだ死んでない…………!!


 優奈ゆうだいは視線を地面から氷継ひつぎの所へと向ける。


 優奈ゆうだいが彼の名前を叫んだと同時期。

 氷継ひつぎが展開した【剣理エーティル】をいとも容易く破壊し、彼の眼前にエネルギー体が迫っていた。


「氷継ィィィィ!!!」


 優奈ゆうだいの叫び声が、氷継ひつぎに届く。術を破壊され、これで終わりなのかと顔を歪ませ苦悩する。


 刹那、空間が歪み氷継ひつぎを中心に裂けて左右の地面に落とされる。氷継ひつぎは眼を見開き周囲を確認しようとした時、目の前に一人の男が現れる。


「すまん、準備に時間がかかった」


 その男は顔だけ後ろにいる氷継ひつぎに向けて謝罪をした。


「ちょっと遅すぎませんかねぇ…………伊澤いざわ校長先生?」


 黒いスーツに黒いコートを羽織り、黒の防刃防弾手袋をはめた、オールバックの男、伊澤いざわ犬寺けんじがそこにいた。


「全く、親子揃ってよくもまあ突っ込んで行くなあ……ハァ……」


 犬寺けんじは溜め息をつきながら、エネルギー体へと注意を向ける。眉にシワを寄せながら力を強めて、陣地を広めていく。


 ───流石に【星座級】とまでなるとキツイか……


 は埒が明かないことを悟ってかエネルギー体の放出やめた。砂埃が立ち込め、それを犬寺けんじが効果範囲を広げることで一気に晴らす。


氷継ひつぎ!!」


「八坂君!」


 氷継ひつぎ犬寺けんじに促され二人の元へ駆け寄る。


「ッ!校長先生!!!」


 郷花きょうかが驚愕の声を上げる。

 が次なる攻撃を仕掛けるために犬寺けんじ目掛けて猛スピードで迫る。犬寺けんじは眼を見開く。すると、紫がかった黒目から光輝く黄金色へと変化した。──────そうこれが彼に与えられた異能力。


「【理の掌握ヴェルト·コード】=強制負荷権限ゼロ·グラウィタス=」


 左手をコートのポケットに入れ、右腕を突き出し言葉を紡ぐ。

 空間や重力、理その物を司る力、それが【理の掌握ヴェルト·コード】。

 =強制負荷権限ゼロ·グラウィタス=。相手の周囲の重力を相手の重量の倍の負荷をかける業。どれだけ倍にするかは彼次第。


 ───バアァァァァァァァァッッッ!!!!


 苦しみに声を震わせ奇声を上げる。起きあがろうと踠くが、のしかかる重さに耐え切れずに、ブチブチッと体の至る所から肉の裂ける音が鳴り、赤黒い瘀血おけつが体の節々から勢いよく噴射する。


「これが、校長先生の…………星承十戒せいしょうじっかいの一人、【麟壁の盾星者りんへきのじゅんせいしゃ】の力……」


 周囲にいた一人の女子生徒が感嘆の声を漏らす。


 星承十戒。序列から逸脱した世界の、領域の秩序を守護するために産まれた十人の【調律者】。それぞれ異名を与えられた者───八坂蓮やさかれん伊澤犬寺いざわけんじなど───が調律者にあたる。

 ちなみにだが、その下に使えるのが、星承創会せいしょうそうかいという、星承十戒以外の二十名の異名持ちが属している。この団体は調律者には該当せず、半数は序列一桁のナンバーズが所属している。


 徐々に負荷の数値を上げ、バキバキと音を響かせ血しぶきの勢いが増していく。気がつけば、左腕の結合部分は重力に耐えきれず、本体と潰れるように別れ、瘀血おけつの池を作り上げていた───がはどういう訳か体を起こし、のしかかる重力その物を弾き飛ばした。


 犬寺けんじは舌打ちをし、突き出していた右手でピストルの形を作り、業を紡ぐ。


「=躁理ノ空砲バレット·フェノメノン=」


 重力操作によって創り出した透明な五発の弾丸を、空間干渉によって相手に向け射出できる、それが=躁理ノ空砲バレット·フェノメノン=。


 迫り来る猛攻に、素早く五発の弾丸を射出する。ならんで正確に脳髄目掛けて放たれた弾丸は全てヒット。そしてめり込まれた弾丸同士がふれ合えば───破裂する仕組みだ。


 激しく轟く爆発音。巻き散らかる瘀血おけつ。煙がの頭部に立ち込め行動を停止する。


「あれが、本物の強者……なのか?親父は…………それ以上だって言うのか?」


 氷継ひつぎは、その一方的とも言える戦闘を前に畏敬の念を抱く。


しかし、息絶えることはなく、再び行動を開始した。


 ───やはり駄目か…………手はあるが、決め手に欠ける………………


 ここまでの戦闘で彼は圧倒的な防御力を誇っていることがわかっただろう。しかしその反面、攻撃力が低いのだ。彼は魔力適正値、エーテル適正値が共にA+とかなり高いが、保持量がBとかなり低い為だ。


 ───ッ!そういうことか!!


 氷継ひつぎ犬寺けんじの弱点に気が付き、鞘に納めた剣を再び抜刀する。少量ではあるが、まだエーテルは残っている。


氷継ひつぎ?どうしたんだよ、急に」


 優奈ゆうだいは臨戦態勢になった氷継ひつぎに声をかける。


「校長先生じゃは倒せない。攻撃力が低すぎるんだ。それがあの人の弱点」


「……確かに、さっきの攻撃も確かに威力自体はに勝てる程の物じゃなかった」


「防御力に全振りしてる異能ってことだ」


「じゃあ、校長先生じゃ倒せないってことだよね?……どうすれば」


 輝夜かぐやは顎に手を当て考える。


「まあ、そこは俺らの出番ってことだ」


 氷継ひつぎは当然の様に言って剣にエーテルを流す。

 

「そうなるよねぇ……」


 優奈ゆうだいは苦笑いを浮かべ、双振りの剣を抜刀し、エーテルを流した。


 

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