第24話 お茶会

 

 あの事件から半月……本日はパトリシア様主催のお茶会です。


 パトリシア様の邸宅へは皆さま厳重な護衛のもと来られた方が多く、一緒に来られた男性陣は別の部屋で待機するそうです。つまりは男性陣は男性陣で。女性陣は女性陣で分かれたということですね。


 男性陣はパトリシア様の婚約者のダヴィド・ルグレ様、パトリシア様の侍女のアンさんの旦那さん、ラーナさんの大ファンの隊長さん、リーリア命のエバン兄様、シェリーちゃんのお兄さん2人とひとつ下の弟さん、シーリー様とカーリー様の幼馴染のご兄弟、ロゼットさんの旦那さん、そしてフィリップ様といった面々です。



 女性陣の方も庶民も貴族も入り混じったとても珍しいお茶会です。

 パトリシア様ご自慢の庭園を眺めながら皆さまでテーブルを囲みます。

 ちなみに年齢はわたくしとリーリアが17歳、パトリシア様が18歳、侍女のアンさんは20歳、シーリー様とカーリー様が16歳、歌姫ラーナさんが24歳、商家のロゼットさんが21歳、シェリーちゃんが12歳とみなバラバラです。



 「それで、皆さまお変わりないでしょうか?」

 「「「「ええ、パトリシア様」」」」

 「「「はい、パトリシア様」」」

 「あ、そうだ。私は引退することになったのよー」

 「「「「「「「え?」」」」」」」

 「あのぉ……ラーナさんの引退って何のことですか?」

 「あー、シェリーは知らなかったっけ?……私、一応そこらでは有名な歌姫だったのよ。それを引退したってことなのよ」

 「へー、そうなんですね」


 ラーナさんは行方不明がすでにおおやけになっていたのでこれを機に引退して王都で小さなカフェを開くそうです。

 ただ、カフェを出すわけではなくどこかの家に後ろ盾となってもらうことで他の介入をさせないつもりなんだそう。

 ラーナさんは有名な歌手だったのでファンも多く、後ろ盾は今回動いた貴族の家がかなりあるのでそこから選び放題なんだとか……今のところ、エバン兄様の上司である隊長さんのご実家が有力候補だそうです。


 なんだか少ししんみりとした空気が流れています。


 「そうだわ、シェリーはもう平気なの?」

 「はい! もう元気です! あ、あのっ。イレーナ様、助けて頂いたそうでありがとうございます!」

 「いえ、わたくしは……それにほかの皆さまがシェリーちゃんを守っていたのですから」

 「そうなんですか……皆さまありがとうござます!」


 頬を染めお礼を言うシェリーちゃんはとても可愛らしいです。空気が一気に和やかになります。美味しいお茶をいただいていると……もちろんわたくしはカップを持参し、そちらに淹れてもらいましたわ。


 「それより、わたくし皆さまにご相談したいことがありますの」

 「パトリシア様、どうされたのですか?」

 「え、ええ……少し言いにくいのだけど……ダヴィド様が……急に過保護になったようで」

 「ああ……それはリーリアの専門ですわね」

 「やだ、イレーナ……わたくしの専門だなんて」

 「どういう意味なの?」

 「……ええ、リーリアの婚約者……というかわたくしのお兄様なんですけど、リーリアへの執着が強いというか……なんというか」

 「「「「あー……」」」」

 「パトリシア様、そういうのは適当に交わしておけばいいのです。相手すると余計にしつこいので」

 「え、ええ……」


 リーリアの言いよう……それほど兄様の執着が強いってことなんでしょう……


 「でも、やはり……わたくし達も婚約者でもないのに幼馴染だからでしょうか?過保護になった気がしますわ」

 「一緒に居られるのは嬉しいんですけど……」

 「シーリー様やカーリー様もですか……」

 「うーん、やっぱりそれは仕方ないのかもしれないわね。あの騒動の後だから……」


 ラーナさんの言うことも最もかもしれません。


 「もう少し経っても過保護なままだったら、元々そういうタイプだと割り切ることね」

 「「「わかりましたわ」」」


 この日、たわいもないことや恋愛や結婚、スキルの悩みについてなど話は尽きることなく身分を超えた友人がたくさんできました。

 侍女のアンさんは職業柄か、あまり話すことはなく頷いていることが多かったのですが、結婚の話題になると既婚者であるアンさんとロゼットさんのお話は大変勉強になりました。


 「あ、そうだ。カフェを開いたらみんなが集まれるところにしましょうよ」

 「いいですね……シーリー様とカーリー様の恋模様も気になりますし……過保護についても」

 「ええっ! わたくしこの機会に頑張ってみるつもりですの。過保護上等ですわっ!近くにいるうちに頑張ります」

 「わたくしもスキルを気にしていましたけど、イレーナ様のお陰で勇気が出ましたわ」

 「まぁ、双子でも好みが違ってよかったわね」

 「「はい!」」

 「人目を気にせず会える場なんてなかなかないですもの」

 「今からオープンが楽しみですわ」

 「「ええ」」


 定期的に集まることを約束しお別れしました。



 ◇ ◇ ◇



 同時刻、男たちの部屋では……


 ※以下はほぼ会話のみなので名前を記載しています。


 パトリシアの婚約者→ダヴィド

 ラーナさんの大ファンの隊長さん→隊長

 シーリー、カーリーの幼馴染兄弟→幼馴染兄、幼馴染弟

 シェリーの兄弟→シェリー長兄、次兄、弟

 侍女のアンさんの旦那さん→アンの旦那

 ロゼットさんの旦那さん→ロゼットの旦那




 エバン 「俺のリーリアは可愛いでしょうっ。でも、話しかけたら隊長でも怒りますからね!見つめるのも禁止です!」

 ダウィド 「ふん、エバン殿……安心なさい。我はパトリシアしか目に入らぬからな!ただし、君たちもパトリシア様を見つめるのは禁止だ!」

 隊長 「そんなこと言ったら俺だってラーナさんしか目にはいらねぇよ!」

 幼馴染弟 「いやー、隊長にもようやく春が来たんすねぇ……」

 エバン 「そういや、お前の幼馴染もいたんだったな」

 幼馴染弟 「そうっす。シーリーとカーリーを狙う奴は許さないっす。大事な幼馴染兼将来の嫁とその家族ですから!」

 隊長 「そういや、お前……あの時容赦なかったもんな……将来の嫁ってしっかり捕まえないといつまにか……なんてことにならないようにな?」

 幼馴染弟 「いやー、隊長じゃないんすからそこはしっかり根回しを……」

 隊長 「なんだとっ」


 シェリー長兄 「ふぅ……シェリーを狙う人はいなそうだ……よかった」

 シェリー弟 「なぁ、兄ちゃん。あの人騎士団の部隊長らしいぞ!すげーよなぁ……」

 シェリー次兄 「なんだって! 俺でも騎士団に入れるかな?」

 シェリー弟 「それより……俺は上級魔道具職人の2人に話を聞きたい……付与スキルあるからさ」

 シェリー次兄、弟 「「よし、俺ちょっと話聞いてくるわー」」

 シェリー長兄 「シェリー……大人に囲まれて不安じゃないかな?大丈夫かな……はぁ」



 幼馴染兄 「いやー、まさかフィリップの婚約者も一緒だったとはな?」

 フィリップ 「あー、お前は前に職場で会ってたか……」

 幼馴染兄 「まぁ……あん時は驚いたぜ」

 シェリー弟 「あのっ、すみません!上級魔道具職人になるにはどうすればいいでしょうか?」

 幼馴染兄 「うーん……試験に受からないことにはなんとも言えないな……今、何歳だ?文字は書けるか?」

 シェリー弟 「11歳です!文字は教会で習ってます!来年からは兄ちゃん達の通ってる学校に行きます!」

 フィリップ 「まだ11歳なら今からでも集中力や根気を養うことは可能だ……試験は15歳からだから出来れば精霊文字の勉強をしておくといいぞ。なんなら本を貸してあげよう」

 幼馴染兄 「まぁ、それでも上級になれる可能性は低いぞ……魔力の色も結構重要だからな」

 シェリー弟 「そうですか……やっぱ【付与】や【鑑定】があってもダメかぁ……」

 幼馴染兄 「なんだって、【鑑定】と【付与】スキルが両方ともあるのか?」

 シェリー弟 「はい! 5歳の時に教会で測ってもらいました……それから教会からの誘いももらったんすけど、魔道具職人になりたくて……」

 フィリップ 「それなら、魔力が少なくても可能性はあるかもしれんな」

 幼馴染兄 「いやー、待ち遠しいなぁ……これで壊れて困ることがくなるぞ」

 フィリップ 「お前は『鑑定の魔道具』を壊す筆頭だからな……」

 幼馴染兄 「えー、なんのことかなぁ?」


 

 アンの旦那 「皆さま楽しそうですね……」

 ロゼットの旦那 「ええ、とても……」


 何だかんだ皆さま有意義な時間を過ごしたそうな……

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