謎が謎を呼ぶ展開。またきっと、彼女たちに逢いたくなる。

 ある事故で意識不明だった少女、美桜(みお)は、約一年ぶりに目を覚ました。 リハビリと経過観察のために入院生活を送ることになった美桜は、同じく入院している車椅子に乗る少女、真璃(まり)に出会う……。


 物語は、主人公の一人である美桜(みお)が約一年振りに病室で目を覚ましたところから始まります。
 一年も意識が戻らなかった原因は、自宅の階段から落ちたことだよ、と説明された美桜は、本当だろうか? と釈然としない思いを抱えます。
 けれど、違和感は、他にも様々病院内に存在していたのです。
 仕事で海外に出ているから、という理由で見舞いに来ない母親。
 時折不自然な対応を見せる、顔馴染みの看護師。
 初対面のはずなのに、やたら近い距離で接してくる少女、真璃(まり)。
 さらには、病院内を彷徨い歩く不思議な少女。
 これらの謎は、適切なタイミングで物語の中に配置されていきます。ごく自然にページを捲らせる引きの上手さと構成の巧みさは、特筆ものです。
 さて、最初は真璃の対応を訝しんでいた美桜でしたが、次第に彼女が描く絵画と彼女の存在そのものに惹き付けられていって……?

 本作、いわゆる百合、というジャンルに属する恋愛作品なのですが、ミステリーものが好きな方も、楽しめるのではないでしょうか。
 もっとも、百合、とは言っても身構える必要はありません。女の子二人による甘酸っぱくもじれったい純愛ものなのですから。いちゃいちゃする二人の様子にほんわかさせられます。

 章ごとに視点を変えつつ進行していく一人称は、しっかりとした描写をしつつも決してくどくなく、柔らかい地の文で綴られる文章に、ごく自然に情景が頭に浮かびます。
 会話文と地の文の比率が、ライト文芸というジャンルにおける理想値に近いのでしょうかね? 兎に角読みやすいのです。登場人物の動きの中に織り込まれる心情に、見事なまでの伏線。書き手としても参考になる部分が多いです。
 しかも驚いたことにこの作者さん。これが処女作なんだそうです。
 これは最早、才能ですよ。ほんと、勘弁してほしいですね (苦笑)

 珠玉の百合作品。この機会に触れてみませんか?
 謎が謎を呼ぶ展開に、またきっと、彼女たちに逢いに行きたくなることでしょう。

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