7話 聖剣の抜け殻


いきなり現れた全裸の金髪美女は、肩で息をしたまま、まだ立ち上がる事が出来ない。

彼女の姿を目にしたアリス=フアン=パブロ=アルフォンソ=デ=トドス=ロス=サントス=デ=ボルボン=イ=グレシアは、わなわな震えながら、元魔王ラバスに、なじるような視線を向けてきた。


「貴様、何をした?」

「何をした? だと?」


元魔王ラバスも困惑していた。

いきなり自分に歯向かってきた凄い剣を、禁呪で倒したと思ったら、金髪全裸美女が、登場した。

アリス=フアン=パブロ=アルフォンソ=デ=トドス=ロス=サントス=デ=ボルボン=イ=グレシアは、自身の額に左手を添え、右手で魔王ラバスを指さしながら叫んだ。


「聖剣を、このような、あられもない姿の女人に変えてしまうとはっ!」


えっ? わし?

いや、【次元消滅デストルクティオ】に、剣を女に変身させる効果なんかあらへんで?


とまどう元魔王ラバスに、アリス=フアン=パブロ=アルフォンソ=デ=トドス=ロス=サントス=デ=ボルボン=イ=グレシアは、蔑みの視線を向けながら、言葉を続けた。


「頭が残念なだけでなく、このような妄想まで具現化させてしまうとは……ド変態エセ勇者め!」


客観的に聞いたら、かなりな言われよう、ちゃうやろか?

ちゅうか、裁判起こしたら勝てるレベルやで。

まあ、落ち着け、わしは魔王。

とりあえず、状況を整理しよ。

……

うん、これは、アレやろ。

ラノベでようある、実は凄い剣は、女の子でした♪ みたいなやつに違いない。

一応、確認してみよ。


元魔王ラバスは、アリス=フアン=パブロ=アルフォンソ=デ=トドス=ロス=サントス=デ=ボルボン=イ=グレシアを無視して、金髪全裸美女に声を掛けた。


「女よ、そなたは何者じゃ?」


ようやく少し落ち着いた感じの金髪全裸美女は、キッと元魔王ラバスを睨んできた。


「あなたのせいよ……」

「えっ?」

「私は、聖剣だったのに、あなたのせいで……」


やはり、この女は凄剣。

せやけど、剣が女体化って、初めて見たわ。


元魔王ラバスの感慨とは裏腹に、金髪全裸美女は、そのまま泣き崩れてしまった。

二人の会話を聞いていたアリス=フアン=パブロ=アルフォンソ=デ=トドス=ロス=サントス=デ=ボルボン=イ=グレシアが、元魔王ラバスに汚物を見るような視線を向けてきた。


いたいけな少女ローザに、妖艶な魔族パリカーに、聖剣金髪全裸美女まで! 手当たり次第にハーレムに囲い込むとは、大層なまおうさまだな! 私は、貴様の様なエロ大魔王を、勇者だとは、断じて認めぬ!」


アリス=フアン=パブロ=アルフォンソ=デ=トドス=ロス=サントス=デ=ボルボン=イ=グレシアは、吐き捨てるようにそう叫ぶと、傷付いた身体を引きずるようにして、試練の間から出て行った。


エライ言われようやな!?

どないせいっちゅうねん!

しゃあない、とりあえず、この女の話をもう少し聞いてみるか。


仕方なく、元魔王ラバスは、泣き崩れる金髪全裸美女に問いかけた。


「そなた、我のせいでこうなった、と申しておるが、もう少し詳しく説明せい」


金髪全裸美女は、泣き濡れた顔を上げた。


「大体……エック、あそこでいきなり禁呪使うなんて……エック、話が違うというか……エック」

「そもそもは、そなたが、魔王たる我に、不遜な態度を取ったからであろう」

「魔王って……なんで、勇者じゃ無くて、魔王って名乗ってんのよっ!」

「我は、魔王であるからして、仕方あるまい」

「……ハァ」

「なぜ、溜息をついておる?」

「こんなイタいやつの禁呪打ち消すのに、聖剣の力全部使っちゃった私って……」

「まあ、なんだ、つまり、そなたは、凄い剣の化身というわけであろう?」

「凄い剣?」

「そなた、そこの台座に逆さに刺さっておった凄い剣、凄剣であろう?」

「……微妙に、話が噛み合ってない気もしないでも無いけれど、一応、私は聖剣だった」

「? だった?」

「あなたの禁呪に耐えるため、聖剣の力全部使っちゃったから、もう元の聖剣の姿に戻れなくなったのよ!」


ううむ……

こやつの話からすると、どうやら、凄い剣の姿には戻れへんらしいな。

一応、素のこやつの能力、見ておくか。


【看破】スキル発動!


名前:ニムエ

種族:???

役職:残滓残りカス

レベル:1(MAX)

HP:1

MP:1

スキル:【絶対防御デフェンシオ

……


【看破】で能力分かるとこ見ると、やはりこいつ普通の人間ちゃうな。

せやけど、レベル1(MAX)、HP1、MP1って……

絶対防御デフェンシオ】っちゅうスキルがどんなもんか知らんけど、あんまり使えそうに無いな……

結局、凄い剣も手に入らんかったし、帰ろかな……


元魔王ラバスは、肩を落として、試練の間から出て行こうとした。

金髪全裸美女―ニムエ―が、慌てて呼び止めてきた。


「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ?」

「ん? もう、ここには用はない。であるならば、後は帰るのみ」

「私を置いていく気?」

「置いていくも何も、元々、そなたは、ここにおったではないか?」


いつから突き刺さってたんか知らんけど、元々凄い剣として、ここに鎮座しとったわけで。


「……責任」

「責任?」

「責任、取りなさいよ!」

「何の話じゃ?」

「あなたのせいで、こうなったのよ? 今の私、レベル1よ? しかも、もうレベル上がんないのよ? こんな所に放置されて、死んじゃったらどうしてくれるのよ!?」

「いや、前読んだラノベやと、レベル固定でも、スキルでどうにかなったり……」

「私、そんなの無いから。この後も、新しいスキルとか覚えないし、謎の能力アップする種拾って、ステータス上昇したりとかもしないから」


それ、別のラノベの話や。

って、結構、お前もラノベ読み漁ったクチやな?


「だから、ちゃんと連れて行きなさいよね」

「断る。我は魔王! 世界を統べんと配下を求めておるのは事実じゃが、使えぬ奴に、我が魔王軍内での居場所は無い!」


ニムエは、両手で顔を覆って、泣き伏した。


「……酷い。世界を統べようとか口にする割りに、なんて了見狭いのかしら。世界は、こんな男にちゃんと付いてきてくれるかしら……」


な、なんやと!?

しかし、確かに、上に立つ者、広い度量が必要や。

こやつの言う事も一理あるな……


一方、ニムエの方は、手の平の隙間から、チラチラ、元魔王ラバスの様子を観察していた。


なぜ魔王って自称してるのか、事情は不明だけど、この男が新しく降臨した勇者で間違いない。

力を全て失ってしまったとは言え、私は、聖剣。

勇者と共にこの世界の闇を打ち払う存在。

やはり勇者に同行するべきだわ。

それに、ホント、このままここに放置されたら死ぬ。

確実に死ぬ。

HP1だし。

絶対防御デフェンシオ】のスキルあっても、死ぬ時は死ぬ。

勇者に守ってもらえなかったら、私に明日は無い。

大義名分からも、実利の面からも、是が非でも、この男について行かないと。


しばしの沈黙の後、元魔王ラバスが、ニムエに声を掛けてきた。


「……致し方あるまい。特別に、そなたの同行を許そう」


その言葉を聞いたニムエが、ぱっと顔を上げた。

その顔に安堵の表情が広がっていく。


「ありがとう、勇者様!」


元魔王ラバスの目から理性の光が消えた。


「誰が勇者や!」



チュドーン



「はっ!? しもた。おい、大丈夫か?」


慌てる元魔王ラバスの視線の先で、しかし、ニムエは、生きていた!


「ちょっと! 何してくれちゃってんのよ! 私、HP1なのよ? 死んじゃったらどうすんの!?」


ニムエが顔を真っ赤にして抗議した。


「いや、そなたがいらん事言うから……」

「いらん事って、何よ?」

「……ゴホン、ニムエよ、我の事は、まおうさまと呼べ」


ニムエは、嘆息した。


今度の勇者は、ビョーキ持ちって事ね……


結局、二人は連れ立って、神殿の外へと向かった。




◇スキル解説

絶対防御デフェンシオ

自己に対して、明確な意図を持って行われる、あらゆる攻撃によるダメージを、自動的にゼロにするスキル。

ただし、誘爆や不慮の事故でのダメージは、普通に受けてしまう。

過信は禁物♪

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