惑星の不具合

 二体の貝が言うには、砂浜の砂が自分たちの体くらいの大きな手の平の形になって自由に動いたらしい。

 その砂浜は両手で拒絶するようにバツ印を作った。仕方なく別の所から入ろうとすると、手の平をいっぱいに広げて押し出された。

しばらく近くをうろついていたけれど、諦めて川を目指しているという事だ。


「あそこの砂、とってもキレイだったわよねぇ」

「そうよねぇ、諦めがたいわぁ」

 二体に目は見当たらないけれど、ジトっとした雰囲気で私たちを見る。

「とにかく、砂浜と水のある場所に暮らしたいという事ですね?」

「そうよ。早めにお願いね」

「魔法の練習をして待ってるわ」

 二体の貝は、のんびりとした様子でそう言った。

「分かりました。それじゃあ水のソーダ玉を置いて行きますから、干乾びないようにお願いしますね」

 私は小さめのソーダ玉を二つ、本から取り出す。


「あら、可愛いわね。中に押し込んで頂戴」

「中って?」

「中は中よ。貝の中よ。ほら、そこから押し込んで」

 私は渋々、貝とぬめり気のある体の間に水のソーダ玉を押し込んでいく。片栗粉が多めのあんのような体液が腕に絡みつき、悲鳴をあげたくなる。

 けれど異種族間交流において礼儀は大切にしなければいけないので、私は悲鳴を飲み込んだ。そうしなければ命取りになりかねないのだから。

 二体ともにソーダ玉を押し込んでから、私たちはその場を立ち去る。


「ポンタ……このネバネバ水で洗ってるのに取れないんだけど」

「植物石鹸くらいなら作れるけど、いる?」

「いる……」


 私たちは先ず、その砂浜に向かった。未知の生物の仕業かもしれないし、もしかすると多すぎる魔力のせいかもしれないからだ。

 変化魔法の練習も兼ねて、私たちは空中を犬掻きで進む犬になって砂浜を目指す。

 なぜ鳥でないのかと言うと、犬の姿をして空中を犬掻きで進む地の精霊の姿が頭から離れないからだ。


 着いてみると、砂浜は白くキラキラとして確かに美しい。その向こうの海はどこまでも透き通っていて、その下の色とりどりの海藻や魚たちの色がよく見える。

 不意に強い風が吹いた。

 私とポンタは橙色の花咲く道から一歩、砂浜へ踏み出した。けれどその足が砂を踏む事はなかった。

 ザザザッ! と風と共に砂浜が盛り上がったと言うより、立ち上がったのだ。

 そして私の身長より大きな手が両側から伸び、バツ印を作った。

「入っちゃダメなの?」

 私がそんな風に声を掛けると、砂浜は肯定するように親指をグッと立てる。

「なんか言葉が通じるみたいなんだけど、生き物かな?」

「いや? 生き物の反応はないよ。それよりこの海には魔力が多いね」

 やっぱり、と私たちは溜め息を吐いた。


「近くに魔力を増幅している何かがあるんだろう。なんて呼ぼうか? 魔力増幅器?」

「それは安直すぎない? 魔力スポット? あれ? あんまり変わらない?」

「とにかく、その魔力スポットが近くにあると思う」

「じゃあ、それを探すのね?」

 私が聞くと、ポンタは頷く。

「それから、ここの魔力もソーダ玉にしてしまおう。もしかしたら、それだけで砂浜は勝手に動かなくなるかもしれないからね」


 そして期待を込め、私は辺りの魔力を見る。

 緑色の、これは風の魔力だ。沖から吹く風に、風の魔力が混ざっている。この砂浜の砂の中にも魔力が蓄積し始めていて、明らかに魔力は過剰だ。

 私は練り上げるイメージを浮かべながら、魔力をいくつかの塊にしていく。

 バラバラと、空中で出来た風のソーダ玉が落ちる。砂浜からポコっと湧き出すように生まれるソーダ玉も多い。

 終わってみると、大小さまざまな風のソーダ玉が百ほども出来た。

 最後に例の本を広げ、散らばっている全てのソーダ玉をページの中にしまう。

「終わったよ。沖から風の魔力が吹いてる」

「沖かぁ……。陸を優先して調べてるから、海には何がいるか分からないんだよね。できれば舟で行きたいんだけど、海はちょっと危ないかなぁ」

 ポンタは腕を組み、顎を撫でながら悩み込んでしまった。


「じゃあ護衛を探していく? 誰かいないかな?」

 私が言うとポンタは急に頭から若木を生やし、目を閉じる。探しているのだろう。

 若木が枝葉を伸ばし、それから花が咲き散って、紅葉して散った。

「いたよ。ちょっと体の大きさが安定しないみたいだけど、いいんじゃないかな」

 体の大きさが安定しない種族とはどのような姿をしているのか全く想像ができないけれど、とにかくその人を探しに出る事にした。


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