とにかく扉とベッド

 ポンタは何千年も生きて心臓に剛毛が生えてしまったのかもしれない。スライムの体をトランポリンにして遊んでいる姿を見ながら、私はそう思った。

 ポヨン、ポヨンと跳ねながらポンタは腹を抱えて笑う。


「このスライムも君たちが作ったの? 最高だね。楽しいよ」

 ズン、ズンと響いていた足音は、この二体のスライムが跳ねて歩く時のものだった。

 ポンタがそろそろとスライムの体から降りて来ると、おもむろに両手の平から木の根を伸ばす。そして二体のスライムに根を張った。


「何してるの?」

「調査だよ。うん……初めにあったのはスライムの方か」

 ポンタが調査をする間にも、リスくんに魔法で道具を作ってもらったペンギンたちは止まらない。広間をあっという間に美しく磨き上げ、作り変えていく。もちろん、右と左でシンプルと華やかな装飾の違いはあるけれど。

 シュワシュワとした、弾けるような空気の感覚。炭酸の滝壺にいるようだ。

 確かに、ここで魔力が生まれているのだろう。


 スライムの体から根を引き抜いて、ポンタが私たちに向き直る。

「やっぱり魔力は自生しているね」

「でもスライムは私たちが間違って誕生させちゃっただけだよ?」

 私の疑問に、ポンタは頷いてから説明をしてくれる。


「僕たちが精霊を誕生させる前から、魔力は均一になろうとしていたんだよ」

 そういう性質の力なのだろうと、ポンタは言う。

けれど魔力の多い所をよそに流すのに失敗した魔力は、少ない所の魔力を増やして均一にしようと試みた。

 ただそういう力でしかない魔力は、偶然にも近くをうろついていたスライムを媒体にした、と言う話だ。


「それから、スライムは魔力を生みだしているんじゃないんだ。微かな魔力を取り込んで増幅させているんだよ」

 ポンタの中に今も送られ続けている世界樹からの情報にも、似た何かがあるらしい。

 それは岩だったり、大蛇だったり、雲だったりするという。

 それらが魔力を増幅して、精霊たちがその魔力を運ぶ。

 これがこの世界の流れになったのだろう。


「しかし、そうなると多い所は多いままなんですね。想像力が勝手に姿を現してしまう期間もあったわけですし、心配ですね」

 半田部長が言う。私は頷いた。するとポンタがとんでもない提案をする。

「皆の部屋をペンギンたちに造ってもらっている間にさ、手分けして調べに行かない?」

 ペンギンたちの歓声を聞きながら、私たち三人は青ざめる。

 私は拒否の意を示したくて、意味もなく銀スライムにしがみ付いた。

「大丈夫だよ。パンダさんとリスくんには僕の分身を付けるし、僕自身はイヌコと行くから。別に戦いに行く訳じゃない。困った時に逃げられればいいんでしょ?」


 嫌だ、嫌だと言いながら、それならと部屋の場所や間取りの相談をペンギンたちとする。

 入り口を覆うように建てるポンタの切り株ハウスの一階は、仕事部屋として使っていいなどと言われ、そっちの間取りも決まった。

 気分が良くなったところでポンタが言う。

「前は千年かけて世界中の情報を集めたんだよ。木の根が張る先で、木の葉が飛ばされた先で、飛んできた鳥たちからね。とにかく世界をぐるっと一周知らないと、世界樹としての力は半分くらいしか出せないんだよ」

 千年も待てないでしょ? と言われれば、私たちは渋々でも頷くしかなかった。


 地上から一つ下がった踊り場にはリスくんと半田部長が部屋を作ることにした。

 私はそのもう一つ下の踊り場だ。

「なぁ、家具は何が欲しいんだ?」

 捻じれ角のリーダーが私に聞く。他のペンギンたちはリスくん、部長、それから地上の切り株ハウスの方にも行っている。

「とにかくベッド。それから開け閉めが軽くて頑丈な扉」

「よっしゃ。任せときな!」

 出発は明日だ。

 私たちは明日、この新惑星の本当の姿を見る事になるのだろう。


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