第13話 夕映えの星人

 ゴミ拾いを始めて一時間。四人とも、三分の二はゴミ袋が埋める事が出来た。


 しかし、何故かまだゴミは減らない……というより増え続けていたり……。


 どこまでまた空き缶を落としたような音が聞こえる。


 さっきからこういう連中が、歩きながらわざと中庭にゴミを捨てたり、校舎から投げ込んでいるせいで、一向に終わらなかった。


 そんな状況の中、ラン辺りが文句の一つや三つでも垂れ流し、衝突するのではないかと思ったが彼女は何も言うことなく、目の前のゴミを袋に入れ続けていた。


「クソっ、こいつら……」


 潰れた空き缶を拾う。中途半端に中身が残っていたらしく、制服に掛かってしまった。


「最悪だな……」


 そして顔を上げた時、俺にめがけてあからさまに紙パックのゴミが投げつけられる。


 投げたのは男子二人組。クスクスと卑しい笑みを向け平然と通り過ぎていった。


「宇宙人の味方するとか、気持ち悪りぃんだよ」


 その一言に、押さえていたふつふつとこみあがる感情が表に出そうになる。


 俺を馬鹿にするのはいい、ただ彼女たちを目の前で貶されたのが沸点を超えた。

何も知らないくせによくそんな心無い事が言えるもんだ。


 思わず手が出そうになるが――しかし、立ちはだかったのはトングを持った金髪女子の背中。


「アンタ達、バカじゃないの?」


「あ? なんだよ宇宙人?」


 男子生徒がランに詰め寄るが、彼女は無視してトングでゴミを掴む。


「アンタ達がこうやって大地にゴミを落とすせいでこの星がダメになってるんじゃない。まさか、地球人がそれを知ってて平然と自分の星を汚すなんて思ってなかったわ」


「んだよ、別に俺らがポイ捨てしたくらいで地球が滅ぶわけねぇだろ。それに、それを守ったところで何も変わんねーよ」


「あのねぇ……星って言うのは生き物なのよ。この星の今のヒエラルキーが人類だと勘違いしてるのは人間だけで、その上は地球なの。いずれか絶対自分達に返ってくるのよ」


 それは他の惑星の生命体が言えるからこその正論だった。理想論でもないただの正論。


「うるせえんだよ。何が生き物だクソが」


 それ以上何も言えなかったのか、男子生徒は会話を一方的に断ち切る。


 そしてランは先ほどとは違う、殺意に近い瞳で彼らを睨みつけた。


「後――アタシの友達を馬鹿にするのは絶対に許さない。それこそ、アタシはアンタたちを滅ぼしたっていいんだから」


 その冗談にも聞こえない脅しに、男子生徒はもうこちらを見る事なく黙って走り去っていく。


「なんだ、とんだ腰抜けね」


 そう言ってトングで持っていたゴミを袋に入れると、彼女は何事もなかったかのように新しいゴミを拾いに行ってしまった。


「あいつ……カッコいいな」


 なんて、本人には聞こえない様に小さく称賛してしまった。


 ◇


 空が紅に染まった頃。粘り強い根気のお陰かもうすっかりと余計なものが無くなった中庭を見て、安堵の息を吐く。


「お疲れ様、色々大変だったようだな」


「どうも」


 先ほど来た四天王寺から、差し入れの缶ジュースを受け取る。散々と拾ってきたせいか、新品が珍品の様に見えてしまった。


 蓋を開け、一気に喉に流し込み、半分まで飲んだところで口を放し達成感に浸る。


「まぁ、色々大変でしたよ」


 そう言って少し離れた芝生で並んでジュースを飲む三人に目を移す。


 アコは余程疲れたのかお茶を縮こまりながらちびちびと飲んでおり、桜はもう飲み終わってしまったのか缶ジュースを潰していた。


 そして、ランはと言うと……。


「あいつはやっぱり面白い奴ですね」


 何事もなかったように、イチゴミルク飲んでむせていた。初めて飲んだらしく、パッケージを確認して再び口を付けているという事は、味自体はお気に召した様だ。


「まぁ、ラン嬢はとてつもなく不器用だが、バカみたいに真っすぐだなからな」


「そうですね。後バカみたいじゃなくてバカだと思います」


 その言葉に、四天王寺は小さく納得した様に鼻で笑った。


「もしかしたら君たちはよく似てるのかもしれないな」


「俺とランがですか? 俺はあそこまで考えなしになれませんよ」


 そうじゃない、と四天王寺はゆっくりと首を横に振る。


「大事にしたいと思ったら、全力で守ろうとする姿がだよ。それも自分を省みずね」


「……まぁ、数少ない大切な友達ですから」


「そうか」


 缶に再び口を付け、もう半分を飲み干した。


「まぁ、まだまだこれからです。明日からも頑張ります」


 そうカッコよく決意表明したものの、直後に笑われてしまう。


 最後にゲップが出てしまったのがよくなかったのだろう。


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