第8話・維新回天

泣いていた。今日も。自分は弱い人間だ。雨が降り続ける。体はびしょ濡れ。でも、まだ泣いている。自分が嫌になる。


「えっ?」

歴坊は武蔵坊弁慶の所に向かおうとするが、頭がグラついた。

「声が聞こえる?」

歴坊の頭に確かな声が響く。

「あ―あ―あ―。もしもし、聞こえてますか?」

「誰?何がどうなって?」

歴坊は辺りを見渡すが、人の気配は無い。

「大丈夫。君に聞こえるならそれでいい。君なら貸せる。使えるよ。」

「なんの話ですか?」

時空が捻れる。

「時間が無い。出来る保証は無い

けど。」

歴坊は混乱しっぱなし。

「泣き虫どうし大変だな。」

プツンと音が切れたように、謎の声が聞こえなくなった。


ヒトラーは偉能力だけでなく、俊敏さや素手での攻撃により、弁慶を追い込んでいた。

「弱過ぎですね。それに、我が洗脳した奴を殺して。」

ヒトラーの黒槍によって洗脳された人を弁慶は、偉能力のバリアによって、押し飛ばし、地面に倒れさせていた。

「馬鹿か。ちょっと小細工をな。」

「どういう意味です?」

「さっき放ったバリアは”柔軟性バリア”だ。さらに、それだけでは無い。」

弁慶はゆっくり歩き、一人倒れた近くの地面をつつく。すると、ヒトラーは笑みを浮かべる。

「なるほど、この方達の”下にバリア”を。」

「あぁ。”透明性柔軟性バリア”だ。透明なのはお前が、万が一、この方達を生きているときづいて、殺そうとするのは防ぐためだ。」

弁慶はバリア展開により、全力をヒトラーにぶつけることが出来ていなかった。

「殺そうなんかしませんよ。でも、面白い人ですね。」

「こういう才能があるからな。そろそろ決着つけないとな。」

2人の戦いは再開しようとした。

「弁慶さん!」


「歴坊か……大丈夫だったか?」

ついに、歴坊は弁慶の姿を捉えた。

「もう一人の偉人ですか?」

「お前には関係無い。俺が相手なのは変わらない。歴坊は応援でもしてくれ。」

「弁慶さん……ボロボロじゃないですか。」

が、二人の戦いは再び再開される。


「弁慶さん……もう……」

「やめろっと言うのか!?」

弁慶は立ち上がるのもやっとだ。

歴坊は目が潤む。が、歩く。そして、弁慶の隣に立つ。

「歴坊、何をする気だ?」

歴坊は弁慶の隣を過ぎ、ヒトラーに向かって歩く。泣きながら。

「泣いている者に勝負などしない。」

「五月蝿い!!お家に帰れ!!」

歴坊は走る。泣きながら。

「辞めろ!よせ!歴坊!!」

弁慶の言葉を無視し、拳をヒトラーに振るう。


歴坊の拳は軽く避けられ、この後の連続攻撃も軽く避けられた。

「糞ガキの相手はしてられん!」

ヒトラーの口調が変わると共に、歴坊のみぞおちへ、蹴りを入れた。

「歴坊!!」

弁慶は叫ぶ。が、歩くと共に痛みが生じる。

「あぁぁぁぁぁ!!」

歴坊はその場に倒れた。が、歴坊はゆっくり立ち上がる。

「無能力かつ、実力無しの者に我に勝負の資格は無い。」

「そんなの関係ねぇ!!俺が戦いたいから戦うだけだ!!」


「レキレキ!」

歴坊達は声の方に顔を向けると、平賀源内とナイチンゲールがいた。

「本が光ってる!」

ナイチンゲールの持っていた歴坊の愛読書である歴史辞書は光を放っていた。

「急に光始めたんだ!」

源内がそう言うと、ナイチンゲールから歴史辞書を受け取る。

「ゲールはここにいなさい。この際、丁度いいから、わしの”偉能力”見せようかい。」

源内はそう言うと、隣に止めていたバイクに、源内は手先から”電気”を流し始めた。

「これがわしの”偉能力”の”起電機(エレキテル)”じゃ。」

そう言うと、源内はバイクにまたがり、

「出発……」

歴坊達が遠くに見えた源内はもう

「到着!」

一瞬にして歴坊の隣に来てしまった。

「はい、本をお届けに参りました!」


本の放つ光は高まる。そして、歴坊は光に包まれる。呆れてそっぽを向いていたヒトラーも気づき、

「何事か!本当はコイツ、”偉能力”者か!」

ヒトラーはじめ、弁慶、源内も後ろに下がる。

「歴坊……」

「大丈夫だ。弁慶。心配する事は無い。」


歴坊は特別な空間へと誘われていた。

泣いている。誰か?僕?いや、違う。でも、なんか似ている。雨が降っている。濡れている。でも、泣いている。声をかける。泣くのを止め、こっちに近づいてくる。顔が見えない。歴坊と頭と頭で触れ合う。


「時間だ。お前に貸す。」

あの時の謎の声だ。

「あぁ。」

歴坊は静かに答える。

光が増す。地面が揺らぎ、風が吹き荒れる。

「歴坊―――!!」

弁慶は叫ぶが、風の音にかき消される。


地面の揺らぎや風が落ち着く。と同時に、光も徐々に失わっていく。

「歴坊?別に身に何も起きてない様だが?」

「馬鹿か。よく見るんだ。」

弁慶の言葉は源内によって一蹴された。

「歴坊であり、歴坊では無い。我、”坂本龍馬”ぜよ。」


「誰だそりゃ?」

歴坊?の言葉は弁慶によって一蹴された。

「その力試させてもらおうか。」

ヒトラーは笑みを浮かべ、前に進み始める。

「”泣き虫二人の力”舐めてはいかんぜよ!」

歴坊?も前に進み始める。

新たな戦いが始まる。


「まずは”独裁”をどう、攻略を試みるかだな。」

ヒトラーは手先より黒槍を出し始める。黒槍をヒトラーは”独裁”と呼んでいるようだ。

「ダメだ。」

「あん?」

歴坊?は急に弱気になると思うと、体が震える。が、謎の声が歴坊の頭に訴える。

「強くなれ、歴坊!てか、ぜよ。ってなんだよ。気になってしゃあない。」

「分かんないよ。勝手に口が。」

「まぁ、そりゃそうだ。俺とお前で強引に”以心伝心”させてるんだから。」

「それを”以心伝心”って言うのかよ……」

どうやら謎の声は周りに全く聞こえないらしく、歴坊?の一人喋りに聞こえていた。


「なに……一人で喋っているんだ。早く我の玩具になりたきゃ、早くなりな!」

ヒトラーは黒槍を歴坊?に向かって勢いよく伸ばす。

「歴坊君……取り敢えず逃げるんだ!」

「逃げろ!歴坊!!」

源内と弁慶は叫ぶ。が、歴坊の目が変わる。

「分かったよぉ、もう!」

歴坊 ?は黒槍に向かって突き進む。

「くそぉぉぉ―――!!」


「”維新回天”(いしんかいてん)!!」

歴坊?がそう叫ぶと、歴坊?に向かって伸びていた黒槍が失わっていく。

「なぬ!?馬鹿な!!我の”独裁”は……」

ヒトラーがそう驚くと同時に、歴坊?の拳に力が集まる。それは黒槍の力を吸収しているかのように。

「喜びな。お前が、俺が生まれて初めて、俺の拳を振るわれる相手だ!!」

歴坊?の拳はヒトラーの腹に一撃お見舞いした。

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