Dirty Work6 六花
「んー? おかしいな……」
「なんだい? さっきからずっとパソコンいじって」
「いや、メールがこねぇのさ。いつものアレ」
「ああー、アレか」
店のカウンターでイルイと話ながらメールの更新ボタンを押し続けているがいつものアレがこねぇ。そう、妹の
俺には義理だが妹がいる。東洋の血が入ってるんで名前こそ俺とはかけ離れてるがな。んでコイツが言っちまえばブラコンのぶっちぎりのヤベぇ奴。少なくとも二週間に一回はとんでもない長文メールをよこしてきやがる。そうでなくとも週イチで何かしらメールがくる始末だ。
まぁ、生存確認だとでも思ってるがな。
「もしかしてお前さん以上に好きな男ができたのかもしれんぞ?」
「はは、それならよっぽどマシ……」
あーほら、噂をしたら何とやらだ。メールが来やがった。さーて今回はどんな長文が……
「おい、イルイ。お前の仕事仲間に六花へ依頼斡旋した奴いるか調べろ」
「は? いきなりどうした?」
「六花からメールが来た。『Killing』とだけな」
「おい、そりゃあ……」
「ああ」
六花が危ねえ。
――
「そんで? 見つかったのか?」
「あったぜ、だがコイツはちと厄介だぞ」
あの日から三日、聞いてみりゃ六花は二週間前に依頼を受けたらしい。だがその依頼ってのは悪評が絶えない政治家からのヤツで、身辺警護とその政治家の別荘に出た妖魔の退治とかいう内容だ。
「乗り込むのは面倒だろうなぁ」
「なんとかできねぇのか、イルイ」
十中八九、六花はその政治家に何かしらハメられてるハズだ。六花も確かに腕の立つハンターではあるが搦手には滅法弱い。いつも注意はしてるんだが……
「無理矢理でいくか?」
「まぁそうだなぁ。だが正面からってのは……いや、正面からしかないか」
「決まりだな。案内してくれ、多分足も必要だ」
行くか。クソッ、金にもなりゃしねぇがまぁ仕方ねぇよな。
――
「あれがその別荘か」
「ああ、事前に調べたが警備は堅いぞ」
夜、いかにも金持ちの屋敷って感じの別荘を望遠鏡で観察する。やけに警備は厳重だ。サーチライトまで点けてやがる。だが乗り込むしかねぇ。今回ばかりは人殺しもせにゃならんだろうな。
「んじゃイルイ、お前はここで待っててくれ」
「はいよ。いつでも出られるようにはしとくぜ」
よし、とりあえず屋敷への道を突破するとしよう。屋敷へのびる山道はゲートで封じられている。迂回して道なき道を進んで屋敷正面に出るのが一番だ。
暗視ゴーグルを装着、幸い新月なおかげで身は隠せている。しかしカメラの多いこと。ジャミング装置持ってきて正解だったな。
「くっ、やっぱりフェンスあるか……」
屋敷まで後少し、だが屋敷を取り囲むようにして有刺鉄線付き高圧電流フェンスが立ててある。こうなりゃ後は正面突破だ。暗視ゴーグル外して……
「よう、警備さん。通してくれねぇか?」
「なっ! 貴様どうやっ……」
「通すかその頭にデカい風穴開けられたいかどっちか選べ」
「ひっ、分かった分かった……開けるよ」
「ありがと、よっ!」
――ガッ!
「つ、ぁ」
警備を一人伸して中へ入る。
――
けたたましい警報が鳴り響く。ぞろぞろと黒服達も出てきやがった。あー面倒くさ。
とにかく前に進む。人間相手にレクイエムは使いたくないが今回は仕方ない。レクイエムはその性質上、人間を殺すことはできず、できたとして昏睡させる程度のことなのだ。
「ふむ、それっぽい扉だな。邪魔するぜ」
「やぁ、クライス君。待っていたよ」
「あんだぁ?」
扉の先にいたのはズラッと並んだ黒服達と、デブのおっさん。多分あのデブが政治家だろう。
「歓迎はどうだったかね?」
「ああ、まぁまぁだったな」
「それは良かった。……して、君が来たのは妹のためだろう?」
「あんたの依頼を最後に連絡がとれなくなったからな。それとも何か? これは俺を呼び出すためにやってたのか?」
「ご明察。見たまえ」
そう言って出てきたのはデカいモニター。そこには……
「六花!」
手足を拘束された六花が映っていた。
――
「私の目的は交渉でね。簡潔に言おう、六花君を返す代わりにレクイエムを置いていってもらおうか」
『お兄ちゃん! レクイエムは渡しちゃダメ!』
「言われなくても渡さねぇよ」
「そうか。しかしそれでは六花君がどうなるか分からないぞ?」
「ふん、知るかよ」
「妹相手だというのに随分と冷たいものだ」
「どうせ義妹だ。血は繋がってねぇしな。それに六花だってこんな仕事してんだ、覚悟の一つや二つあるだろうぜ。なぁ、六花?」
『うん。お兄ちゃんに迷惑かけられないから。仕方ないよ』
「なるほど。では六花君には十分嬲られてもらおうか。その上で……」
「だけどな、おっさん」
「六花の命も体も、お前らにやる程安くねぇんだよ」
――シュン!
「お兄ちゃん!? どうしてここに!?」
「どうしたもこうしたもあるか。忘れたのかよ、アレ」
俺はおっさんがいた部屋から六花の目の前に瞬間移動、転移した。昔、半ば無理矢理頼まれてコイツの体に刻んだ「転移陣」が役に立つとはな。
特殊な条件でしか発動しないが今回はそれに当てはまったんで都合は良かった。
「逃げるぞ、六花」
「うん!」
それと同時、湧いてきたのは雑魚妖魔共。なるほど、あのおっさんは妖魔かあるいは妖魔使いってところだな。
「戦えるか?」
「大丈夫! 足の『ラプソディ』も奪われてないよ!」
「そうか。なら行くぞ! 全力疾走だ!」
妖魔共を切り刻みながら前に進む。なんの、本当に雑魚しかいねぇな。六花の動きにもキレがある。相変わらず足技が上手い。しかしこの六花を人質に取ってたワケだ、何しやがった?
「六花、なんでお前、捕まったんだよ」
「えーっと、確か妖魔を倒してる時に催眠ガスで……」
「はあ、典型じゃねぇか。よっ、と。お、コイツぁ」
出てきた出てきた、でっかいのが。コアは……うわ、頭か。このデカさじゃレクイエムは届かねぇ。そうだ、六花を……
「六花! 奴のコアは頭だ。俺がジャンプ台になるからラプソディで蹴り砕け!」
「了解! はぁっ!」
協力ジャンプ! よし、上手くいった。キレイに蹴り砕いたモンだな。一瞬ででっかいのは沈黙した。よし、このまま突っ切る!
……と?
「おいおいおい。嘘だろこりゃ」
屋敷から出るとまぁ大量の妖魔が湧いてる。ここまで多いと斬り進むのも骨だ。だがこれだけの妖魔が自然発生的に湧いたとは思えねぇ。差し詰め術者がいる。んで恐らくは……
「お兄ちゃん、どうしよう?」
「んー、多分あのおっさん伸せばなんとかなるだろ。戻って討伐だな」
「うん! あのデブただじゃおかないんだから!」
――
「やはり戻ってきたかね」
「ああ、あんたを殺さなきゃ帰れそうにもないんでな」
今一度、あの部屋に乗り込む。やはり黒服がズラッとならんでやがるが……この黒服、多分妖魔だ。
「では戦うとしようか。私が勝てばレクイエムもラプソディも手に入る訳だしな」
「ふん! お兄ちゃんが負けるワケないんだから!」
「お前たち、かかれ!」
その言葉と同時、黒服が妖魔に姿を変える。ほほう、なかなか噛みごたえのありそうな奴らだ。
「六花、油断するなよ、さっきまでの雑魚とは違うぜ」
「うん、分かってる」
お互いに背中を預けながら戦う。まぁなんだかんだで六花とは息が合うから不思議だ。しかしこの黒服妖魔、しぶといな……数は12と少ないが恐らくエリートだろう。仕方ない、アレやるか。
「六花! 『共鳴』やるぞ!」
「はーい!」
背中を合わせて俺のレクイエムと六花のラプソディを重ねる。同時、空気が揺れ、巨大な音の塊が妖魔共を吹き飛ばす。これは「共鳴」、魔を退けるレクイエムと魔を封ずるラプソディがお互いに力を高め合う技だ。当然、俺達兄妹にしかできない。
「行くぞ!」
一回り大きくなったレクイエムを振り、妖魔を両断する。六花の足に纏うラプソディの風刃もさっきより数段力を増してるのか蹴りの一撃で妖魔は砕けた。
――
「さぁ、おっさん。どうする? 部下は全員くたばったぜ」
「ぬぬぬ……ならば私が直接相手をするまでのこと! 見るがいい、妖魔将ベルゼの欠片の力を!」
そう言うとおっさんは自分の胸に尖った欠片を差し込んだ。それと同じくしておっさんは醜悪で巨大な妖魔に姿を変える。
「うわ……何あれ、気持ち悪いよ、お兄ちゃん」
「あー、こりゃ失敗してるな。おーいおっさんよ、聞こえてるならさっさと欠片抜きな。じゃねぇと取り込まれるぞ」
全くベルゼの欠片なんてどこで手に入れたんだか。普通の人間にゃこの力は強大すぎる。使った瞬間お陀仏だ。
「ウ、ウグ、フハハハ、コレガチカラカ!」
「いや、あんたの力にはなってねぇ……もう聞こえてねぇか。六花、仕留めるぞ。チャンスは一瞬だ」
「分かった!」
――ダン、ダダン!
おっさんの顔めがけて鉛弾をブチ込む。
「グア!」
「はあああ!」
――ガキィン!
その一瞬のスキに六花がコアの外殻を蹴り割る。そして……!
――ザンッ!
「これで終いだ、おっさん」
コアにレクイエムを突き刺してトドメだ。
――
「はーあ、やっと終わった」
「お兄ちゃん、ありがとね! 助けに来てくれて!」
「仕事選ぶ時はもっとちゃんと内容見ろ。今回みたいに俺が助けに来れるとも限らねぇんだからな」
「はーい……」
「まぁ、無事だったからいい。帰るぞ」
とりあえずベルゼの欠片を回収して帰る。今回は報酬ナシだがこの欠片が手に入っただけまだマシか。
――二週間後
あの事件から一週間、六花は俺の店に泊まり込みやがった。なんでも、「お兄ちゃんは放っておくとピザしか食べないから私が面倒見る!」とのことらしい。全くいい迷惑だ。まぁそれから仕事が入って、六花は出ていったがな。
「ん、メールだ。うお……六花からか、相変わらず長文だな」
メール読みながら宅配ピザに電話する。ホントに長ぇな。よくここまで書けるモンだぜ。
『ご注文は以上でよろしいですか?』
「ああ。……サラダボウルもセットでくれ」
『おや、珍しいですね。クライスさん』
「たまには、な」
――お兄ちゃん、野菜も食べなきゃダメだよ!
メールの最後はそう締められていた。
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