2020/11/25

2020/11/25


 埋まらぬパズルのピースであるとか、点じ損なった竜の睛であるとか、喩え様としては其れなりの言葉が在るに関わらず、何れか引き合いに出した所でしっくりとは来なかった。


 何の事は無い、唯一無二の人を表すのに他所から代用が利くわけはない。その事に思い立った時には今日まで他で妥協して余生を彩る事を忌避してきた自分に普段塵芥程も湧かない自賛を送っても良いと思える程度には行く道筋の拓ける予感のしたものだ。


 喩える言葉は無いにせよ便宜上欠落と称するなら、頃年は其れを悉く思い知らされた。


 まさか他人の幸せを妬み嫉むのはお門違いと気付いていない訳は無く、であれば何なのかと言えば、要は吝嗇の性は先に述べた欠落に胸中を悲哀だ寂寥だを越えた境地に運んだのである。


「…つまりどんな状態なわけ?」

 何を言い出すことやらと、半ば呆れた様に上目で問い掛けてくる。おい登場早ぇよ誕生日明日だろ、を飲み込んで口を開く。

 「"あとお前だけが居ない"ってのは俺ら当人にも、俺らを祝福しただろう人達にも勿体無い程今は満ち足りるに一歩だけ足らねぇ」


 誰も責めようが無い、言っちゃあ悪いが俺にも責任負いようが無いんだからどうしたって好転の仕様が無いのだ。袋小路だが進む道理も意味も無い。


 「進退極まったな」

 「俺も進みようが無いからどっこいでしょう」

 お、珍しくブラックな洒落。

 励ましてんだろうがと繰り出された蹴りを尻面で甘んじて受け止める。楽しい楽しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る