第47話 同本の力
「!? ……凄い量……! しかもこの霊力の高さ……明らかにアタシよりも上だし……!」
軽くショックを受けている様子だ。
俺に続けて、『妖祓い』でも何でもない一般人に負けているのだから、それは相応に劣等感を覚えるかもしれない。
「あー落ち込まなくても良いよソラネちゃん。同本の女は生まれつき特別に霊力が高いけど、それイコール今の『妖祓い』の素質があるってわけじゃないし」
「今の? どういうことですか? 霊力が高ければ強いはずですけど」
「強い……かぁ。確かに強い弱いで言うなら強いのは事実よ。けれどそれが現代の『妖祓い』として成り立つ強さがどうかは別問題」
「……?」
ソラネは分かっていないようで小首を傾げている。俺もしおんも同じで、姉さんの真意がまだ伝わってこない。
「『妖祓い』の本質って何かしら?」
「本質……人間との共存を図ること、ですか?」
「う~ん、立派な志だけど、残念ながら違うわ。それはあくまでも現代に根付いた理念に他ならない。元々『妖祓い』は、その名の通り妖を祓うことを生業としているのよ」
文字通り、妖を討伐するということなのだろう。
「でも現代じゃ、霊や妖を無暗に傷つけたりはしないでしょ?」
「それは……はい」
あくまでもそれは最終手段ということは知っている。
「悪霊や悪い妖怪相手でも、最終的には成仏や封印処理、あるいは輪廻転生できるように討伐するのが現代の『妖祓い』。そしてそれはとても素晴らしいことだと思う。彼らに次の生をチャンスとして与えてあげているんだからね。でも……」
姉さんは一旦言葉を止め、俺たちの興味を一気に引きつけたあとに口を開く。
「……同本の力は、基本的に相手を滅するためのもの。輪廻の輪から取り除く外道の力なのよねぇ」
「!? ……つ、つまりそれって、成仏させた悪霊や討伐した妖は、生まれ変わることができないってことですか?」
「ん、そういうこと」
ソラネは絶句しているのか、口をポカンと開けながら固まっている。
しおんもソラネほどではないが驚いているのは確かだ。俺はちょっとよく分かっていないが。
「姉さん、それが『妖祓い』の素質が無いってことに繋がるってことか?」
「間違えちゃダメよ日六。あくまでも〝今の『妖祓い』〟の素質、ね。私たちの力は、問答無用で霊や妖の魂そのものを消滅させちゃうのよ。これは今の『妖祓い』の理念にそぐわない行為でしょ?」
「……なるほど」
同本の力は、成仏や討伐といった比較的穏やかな対処ができないという。一度その力を持って倒してしまえば、魂そのものを消滅させ来世を奪ってしまうのだ。
「そんな力……聞いたこともないです……!」
「私たちはこの力を――〝
「だから姉さんは『理事会』の誘いを断ってるのか?」
相手の来世を奪うということは、俺のような転生することもできないということ。それは積み重ねてきた魂の歴史そのものを砕く行為だ。
「んーそれもあるけどね。てか一番の理由は、誰かの命令で命を奪うなんていう仕事はしたくないから」
あ、それは俺もそうだ。
仮に奪うようなことがあって、それは自分の意思で行うべきことだ。
少なくとも異世界で俺はそうしてきた。それが命を背負うということだと思うから。
「じゃあ……ヒロも?」
「あん? さあ……俺もそんな力があんのかねぇ。どうなんだ、姉さん?」
「さあねぇ。前にも行ったけど、男でそんだけの霊力を持って生まれてきた同本は数えるほどだし。それにほとんどが……ね」
「ああ、そうだった。短命で終わってたんだっけ?」
短命と聞いてしおんとソラネがギョッとしているが、俺が前に死んで、死の運命を乗り越えられたことを言うと、ホッとしたような表情を浮かべた。
「多分『理事会』の連中は、同本の力を欲してる」
「え? けど知ってたらおかしいですよ。少なくても『理事会』は『異種』との共存を望んでるはずです。なのに魂すらも消滅させるような力を持つ人を欲するでしょうか?」
確かに共存とは真逆に位置する能力だからな。『妖祓い』ならともかく、一般人として過ごすと言っているのだから、そのまま放置しておいた方が良いかもしれない。
それなのにわざわざスカウトをするということは、その力を存分に利用するつもりなのだろう。
「ま、『理事会』だって一枚岩じゃないってことじゃない? よく知らないけどねぇ。中には『異種』を心から憎んでる奴らがいて、『異種』を二度とこの世に生まれないようにするために私たちの力を望んでる……なんてね」
冗談めいた感じで姉さんは言うが、もしその考察が当たっていたとしたら大事のような気がする
それに俺だけは、同本の力を聞いて、その可能性が非常に高いと思ってしまった。
何故なら、以前イズミさんに『理事会』には二つの派閥があることを聞いていたからだ。
その一つである強硬派。そいつらがもし、この世から『異種』を消し去ろうとしているのだったら、同本の力は何が何でも手にしたいものだろう。
何せその力さえあれば、時間はかかるかもしれないが、『異種』を殺し尽くせば、この世に生まれることはないかもしれないのだから。
俺はチラリとソラネを見る。彼女と目が合い、「何?」と聞いてきたが、俺は「いや」と短く返して目を逸らす。
ソラネが慕う恩人。その人もまた強硬派に属する存在である。それを彼女が知ったら、一体どうなるのだろうか。
まったく、『理事会』は本当に厄介な問題を抱えさせてくれる。
「じゃあろっくんと五那さんは、これからも狙われちゃうんじゃ……」
そう、それがマジで鬱陶しい。
異世界でも俺の力を利用しようと企む勢力がいたが、本当に面倒な連中なのだ。
しかも断れば、強過ぎる力は災いしか生まないからと言って、今度は殺そうとしてくるし、一体何様のつもりだよと言いたい。
「同本のことを知ってるなら、とても稀少な日六の方をできるだけ早く手に入れようとしてくるかもね。……死ぬ前にって」
「……なるほどな。向こうだって力を持って生まれた同本の男は短命だって知ってるかもしれないしな。けどそんなに早く手に入れても、どうせすぐに死ぬかもしれないのに」
「そうね。けど時代は進んでるからね。延命措置を施す方法だって持ってるかも。もしくはあんたを実験材料にして、同本の〝覆滅の力〟だけを手に入れようとする可能性だってあるわ」
「うわぁ……マジ最悪」
「まあでもヒロなら大丈夫でしょ? 全力を出したらSランクの妖以上の強さを持ってるもん」
「そうだよね! ろっくんは最強の英雄さんだから!」
確かにそんじょそこらの連中に負けるつもりはないし、殺そうとしてくるなら相手が人間でも容赦はしない。
「ふ~ん、一応聞くけど、日六。あんたが全力出したらどれくらい強いん?」
「ん? そうだなぁ…………自爆でもいいんなら、地球ごと消すこともできるけど」
「「「は……?」」」
「え?」
…………………………。
何だかすっげえ長い沈黙が続いてるんだが?
しかも三人ともが時を凍らせたようにジッと俺を見続けている。
「……えっと……日六、マジで言ってる?」
「一応マジだぞ。大体俺は異世界そのものを壊滅しようとした災厄を倒してんだぞ。それくらいの力は持ってるっての」
「「「…………」」」
はい、また沈黙頂きました。
「は、はは……ヒロはアタシが思っている以上にバカげた存在だったわけね」
「で、でもでも! わたしはそんな邪神みたいなろっくんでもいいと思うよ!」
「転生して弟が最強になった件……」
ソラネ、バカげたは言い過ぎじゃね? しおん、誰が邪神だ誰が。あと姉さん、ラノベのタイトルみたいになってるから。しかもそれ、主役は弟じゃなくない?
「ま、とにかく俺に関して大丈夫って感じで?」
「「「異議なーし」」」
あら、見事に一致しちゃったよ。まあお墨付きももらえたし、『理事会』に関しては適当に断り続けるということでいこう。
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