過去:15

 睦月にどうして向井光一をそこまで追い求めるのか、聞いた事がある。




 異世界にやってきて丁度一年ほどたったある日の事だった。



 その頃、俺と睦月は自身の魔力を制御できるようにはなっていて、加えてある程度は魔法が自由に使えるようにはなっていた。




 ただ単に疑問だった。



 何となく睦月から向井光一との始まりの話を聞いた事は幾度かあったけれども、きちんと聞いた事はなかった。



 だから、問いかけた。



 素直に睦月が話してくれるとは思っていなかった。だけれども俺はただの好奇心からそれを聞いた。



 向井光一に会えない事に地球に居た頃以上に睦月はその頃から狂っていた。




 向井光一。

 その名を聞くだけで正気じゃいられなくなるほどに、睦月は向井光一を特別だと思っていたのだ。



 大切で、特別で、どうしようもなく求めていたのだ。



 だから俺の問いかけに答えた睦月の言葉は、支離滅裂だった。


 睦月の傍にずっといたから、睦月の事ずっと見てきたから、俺にはどれだけ支離滅裂な言葉でも何となくそれを理解する事が出来た。



「光一は。誰も居ない中で私の味方でいてくれたんだぁ」



 睦月はそういって笑っていた。




「お母さんが何かいって。お父さんが暴力振るって。そう。光一は。ヒーロー。私を救ってくれた人」





 親からの虐待でも睦月は受けていたのだろう。睦月が歪んでいるのは、そういう過去も理由かもしれない。




「私の光。光一が居たから。私は。此処に。そう、此処に居る。光一が。ずっと、私と。私の傍に。味方で。いるって。そう、いってくれたから」




 睦月が絶望した時に、向井光一が手を差し伸べた。

 睦月の話を要約すればただそれだけの事なのだ。でもたったそれだけで、睦月は依存した。



 最初は純粋な好意だったかもしれない。

 だけどその睦月の思いは独占欲や執着、依存といった思いにより歪んだのだろう。







「光一は私の。私の傍に居るっていってくれた人。だから、私が迎えに行くの。それで、ずっと一緒に居るの」






 俺に昔話を語った睦月は、最後にそういって何処までも幸せそうな笑みを浮かべた。



 睦月は狂っていて、歪んでいて、傍から見ればおかしい言動をよくしていた。

だけど、俺の知る限り睦月は何処までも純粋だった。そう、睦月は純粋すぎたが故に歪んでいるのだ。

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