2人の隠れハイスペックによる異色の日常

九乃紫

第01話 陽が導き出した答え

「だからさしゅう、お前は陰キャになってくれないか?」


 俺こと佐々木ささき秀一しゅういちは今、幼馴染であり親友でもある氷室ひむろようにそんな突拍子もないことを言われていた。


 なぜ、そんなお願いをされているのか。

 それには俺たちの現状と今後のことを少し話さなければならない。


 簡潔に言うならば、


 1つ、俺たち2人がモテること(特に陽は異次元)

 2つ、高校受験を機会に新天地で過ごすこと


 全てはこの2つで説明できる。


 詳しく説明すると、

 陽は周りとかけ離れた顔の持ち主であり、成績も優秀ながら運動神経も抜群。

 イギリス人と日本人の血を持つハーフの母と日本人の父から生まれたクォーターであり、そのため髪の色は金髪で身長も184cmと高身長である。


 そんな人物が学校にいたらどうなる? 

 たくさんの女の子に毎日毎日囲まれ、その対応に追われる日々。

 モテすぎた障害で陽が、恋愛ごとにはしばらく関わりたくないと思うようになるのは当然のことだった。


 そんな幼馴染を見ていた俺は、最初は陽のことをざまぁなんて少しは思っていた。

 なんせ俺は女の子にこれっぽっちもモテたことなどなかったからだ。

 それは俺が、アンパ○マンのごとく太っていたからに他ならない。

 

 そんな俺は兄の影響もあり、何も考えずに柔道部に入ったのだが…

 俺の見込みは甘かった。いや、甘すぎた。

 

 後から分かった話なのだが、その柔道部は全国大会常連の猛者の集団であり、練習が他の部活よりめちゃくちゃキツかったのだ。

 

 俺は毎日死ぬほどキツいと思わされる練習に、耐えに耐えに耐えた。

 体重がみるみる減っていく一方で身長はぐんぐん伸びた結果、腹筋がバキバキに割れているモテ体型へと変貌していた。

 

 体型だけではない。両親共に美形な顔立ちのせいか、俺の顔は俗に言うイケメンに生まれ変わっていたのだ。

 

 しかし、俺は段々と自分の顔が両親譲りの美形な顔へと変貌することに危惧していた。

 なぜなら、幼馴染の親友が超イケメンであり、モテすぎているために起こる悩みを腐るほど聞き、実際に見てきたからだ。

 

 そんなイケメンの隣に新たに生まれ変わった俺と言う獲物が現れた結果、案の定、俺もモテにモテ始めた。

 

 だが、逆に親友という超イケメンがいたからこそ、自分の被害がマシだったものの、陽の苦悩を以前は全く理解できていなかったが今ではこれでもかと理解できてしまった。


 そんな学校生活を過ごしていた中学3年の春。


「俺、県外に行くことになったんだけど、秀も一緒に来ないか?」


 と言う陽の言葉に


「…は? マジ?」


 としか返せなかったのだが、陽の両親が来年に仕事の都合で引っ越すことになったらしい。

 それで、高校受験を機会に俺も一緒に来ないかと誘われたのだ。


 なんやかんやで俺も一人暮らしに興味はあったし、独り立ちするには少し早いが良い経験になるだろうと両親の同意も得たので、陽の誘いに乗ることにしたのだ。

 

 また、近くに信頼できる大人がいるということが、同意を得た大きな要因でもあったと思う。


 ここでようやく最初の話に戻るのだが、新天地の高校には俺たちの名前と存在を知る人はいない。

 

 俺たち2人にとって、これまでの生活から逃れられるまたと無いチャンスだった。

 

 だが、しかし、何も対策をせずに高校へ入学してしまったらどうなる?

 今現在と変わらない悩みを持ち続けたまま高校生活を送ることになる、ということは想像に難くない。

 

 そのことは、もちろん陽の頭の中にもあったようで…


「学校には、人から避けられる存在というのがいくつかある。それはなんだと思う?」


 そんな陽の問いに、俺が考えていると、


「それはな、不良と陰キャだ」


 その答えを聞き、なるほど…と思った。

 確かに。俺はその両方になんら関わりがない。

 その事実がその言葉の信憑性を高めていると感じる。


「そして、不良と陰キャ…、この両方は引かれ合う関係にある」


 それもまた、事実だ…と思った。

 不良が陰キャに絡んでいる現場をたまにだが目撃したことがあったからだ。

 そして、陽が言う。


「俺が不良のフリをする…」


「だからさ秀、お前は陰キャになってくれないか?」

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