スキマ

 男は最近、視線を感じていた。

 一人暮らしの部屋にいる時も道を歩いている時も、大学で授業を受けている時にも、背中がむず痒いような気がするのだ。

 

 今日も、大学へいくために道を歩いていると、視線を感じた。

 男が右を向くと、家の塀と塀の間に、細い隙間があった。猫も通れないような隙間。昼間なのに、隙間の中は不自然なくらいに暗かった。視線は、その隙間から注がれているような気がしたが、覗き込む勇気はなく、男はそのまま大学へ向かった。


 ーーどうも視線は、隙間から注がれているらしい。

 家具と壁の間、講義室の少しだけ開いた扉、食堂の上に設置されたエアコンの送風口など、ありとあらゆる隙間から、誰かに見られている気がした。男は極力、隙間には近づかないことに決めた。

 

 翌朝、男は洗面台へ向かい、顔を洗う。

 顔を上げると、目の前には鏡。

 ーー男の唇の隙間からは、二つの目玉が覗いていた。

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