魔女の林檎

武田修一

幽閉

 朝の訪れと共に目が覚める。決してわたしが朝に強いだとか起きるのが早いだとか、そういうのが理由ではない。ここの空間に灯りと呼べるものがないだけだ。わたしの周りは石で固められていて、わずかな広さがあるだけで何か物があるわけでもなく。あとは。わたしが飛んでも届かないような高い位置に鉄格子がはめ込まれており、そこから覗く僅かな隙間から外の景色と明かりが見ることができる。あれだけがわたしと外と繋ぐ唯一の。つまりは、あそこから明かりが入ってきているのだ。だから、明るければ起きて、暗くなったら寝る、そういう生活をしている。生活、といえるものではないだろう。もう何年も人と話していない。ただ起きて、寝る。それの繰り返しで、何の生産性もない、自堕落で、空虚な、生活とも呼べない暮らし。

「……」

 声の出し方も忘れた。

 高い高い位置にある鉄格子の向こう側を見る。今日も今日で何も変わったところはない。たぶん、誰も彼もがわたしを忘れていることだろう。ここに閉じ込めた人間だって。最初のうちだけだった、わたしがおとなしくここにいるかを確認しに来たのは。いつからか彼らは来なくなり、罵声の音すらしなくなってしまった。それからはただ朝と夜を待つだけになっていき、非常に退屈な日々だ。

 そろそろここから出て行きたい――――。

 そう思っては、その考えを、頭の隅に投げ捨てるのだった。

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