『うまれそこない』についての解説など

 年が明けてから、「せっかく2作まで応募できるんだから何か書こうか。ネタあるかな」と仕事中にぐるぐる考えていたら、書けそうなネタが思い付いたので急遽書いたのが今作になります。「せっかくだから」的なノリで2作応募する私みたいのがいるから、最終的な応募総数がああいうことになったのかもしれませんね。


 先ほどの例に倣って今作についても主な構成要素を挙げると、こんな感じ。


 1.とにかく人が死ぬ話を書きたいというヘキ

 2.引きこもりがひどい目に遭う話を書きたいという強い情熱パッション

 3.仲の悪い双子のきょうだいネタをやりたいという強(略


 私は2019年最後の投稿作品の中で地球/人類を滅ぼした後、2020年最初の投稿作品としては人が死ぬ話を書いたことになります。年末年始に何をしているのかという話です。こむら川小説大賞応募作の中には年末年始ネタもあったというのに、それに比べて私って、と思わないでもないのですが、きっと年中無休でこういう感じなのが私なので、仕方がなかったのでしょう。多分。多分って何だ。


 まず、字数については1作目をジャスト10,000字にしたので今度はジャスト3,000字にしようかなと少しだけ考えましたが、3,000字に収まるような話にはならなそうだったので字数縛りについては早々に破棄。そして、考えれば考えるほど「嫌な話」になって行く予感がしたので、「どうせならとことんまで嫌な話を書いてみよう」と方向性を決めました。今作は思い付いてから投稿するまでの所要日数が2日ほどの短期間で、『公正な抽選』に比べると、深く考えるよりは勢い重視で突っ走った作品でもあります。


 

 今作で起こる「胎児期に消滅した双子の片割れ(バニシングツイン)が身体に宿る」という現象のイメージの大本は多分『畸形嚢腫』(『ブラック・ジャック』のピノコ初登場エピソード)ですが、それが人面瘡、そして最終的に口となって現れる、というふうな設定上の変遷を辿りました。


 引きこもり男の膝に出現するのが「人面瘡」というのは書き始める前、ごく初期にあった設定ですが、「膝って狭いし、顔よりは口(唇)だけが出てひたすら罵倒する方が絵的にも面白いのでは」ということで現れるのを「口」にした、という経緯があります。実は投稿した後、「引きこもりの膝に人面瘡(的なもの)ができる」というシチュエーション自体は丸被りしている作品が既にあったことを知り、「人面瘡から口に変えた私グッジョブ!おかげで要素丸被り感がちょっとマシになってる!」とちょっと自分を褒めてみたりする一幕があったりしました。要素被りに関しては本当に偶然の一致だったのですが、要素が被った相手の方にも「シンクロニシティ」と認識していただけて良かったです。



 「傲慢拗らせ系引きこもり男の膝に幻の姉妹(の口)が出現して、延々と罵倒。いちいち正論で心を抉りにかかってくる姉妹の言い草にキレた引きこもり男は、やっちゃいかん方法で姉妹を殺そうとする」


 今作は、シンプルに説明するとこういうお話です。


 引きこもりには個々のケースごとにいろいろな事情があり、一口に「引きこもり=甘え」などといえないものだし、医療や福祉による介入もままならないことが多い、といったことは重々承知の上で、引きこもり男の「俺」の人物造形、引きこもるに至った経緯と現状に関してはかなり容赦なく、同情できる要素が少ないものにしました。物心付いた頃から女とバカを見下す嫌な奴だったのが、母親からは可愛いボクちゃん扱いで溺愛という形でスポイルされ、どうしようもなく社会に適応できない大人に育ちあがり、矯正困難なひどい形に認知が歪んじゃってる、といった感じに。引きこもり男がナイフをコレクションしているという設定も、単に「口」を潰すための武器が部屋の中に必要だったというお話作り上の都合というだけではなく、「ヤベェ奴」っぽさを出すためという意味を兼ねてのものです。


 引きこもり男の母親はいわゆる共依存にどっぷり嵌っちゃって息子の奴隷と化し、最期は息子に惨殺されて、まぁある意味可哀相ちゃあ可哀相ですが、息子をスポイルした結果が返ってきたと思えば、可哀相だけど仕方ないねあなたがそもそも間違ってたんだから、という感じ。私、男の子を甘やかしてダメにする母親って、嫌いなんですよ。ていうか、父親と仲の良い娘とか母親と仲の良い息子って、近親相姦してそうで気持ち悪くないですか?(ひどい偏見)


 今作は現実に、私にとって身近なところにいる引きこもりをいわば「仮想敵」として、とにかくコイツ(アイツ)をこれ以上ないまでにひどい目に遭わせてやろうという強い情熱パッションをもって書き上げたのですが、そんな書き方をしたものだからもう、書いているこちらが謎のダメージを負いましたよね。一種の自傷行為といえなくもないかもしれません。


 その甲斐あって、かなりいい感じに嫌な話に仕上がったと自負しているのですが、ラストは「結局真実は謎のまま」という、賛否が分かれるかもしれない形にしました。全ては引きこもり男の妄想だったのかもしれないけれど、そうだとしたら引きこもり男の死体はどこへ消えたのか?というのがわからないし、実際に幻の姉妹が顕現して引きこもり男の身体を乗っ取っちゃったのかもしれないけれども、そうだとしてもガワとしての引きこもり男がどうなっちゃったのかわからないまま、という。実際、どうなったのかは作者にもわかりません。きっと何か不思議なことが起こったのでしょうね。



 反省点として、引きこもり男の一人称で話を進めた後、最終話で第三者的な視点から事件の態様を語るという形式にしたはいいものの、第三者、つまり警察官の八神さんの出し方が唐突過ぎて、「この人誰?」と、作者の意図しないところで(読者から見た)謎ができてしまったのは失敗でした。もともと、最終話はニュースか報告書みたいなものをイメージしていたところが、やってみたら難しかったので急遽、苦し紛れに出したのが八神さんだったのですが、ここはあくまで第三者的な語りに徹して人名を出さないか、八神さんを出すならもうちょっと丁寧にお出しするべきでした。なお、作者は名付けが適当すぎる性分なので「八神」という名前にも特に意味はありません。



 今作を読んで嫌な気持ちになった方がたくさんいらっしゃったとしたら作者としては大成功ですし、とても嬉しく思います。

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