雪と怪奇に満ちた、だが暖かな物語

人ならざる者たちが集う、不可思議な市とそこに迷い込んだ少女を題材とするジャパネスク・ファンタジー。

雪と氷と山をイメージして書かれたという作品ながら、氷結した家族を救うべく幼い少女が奔走するさまはハラハラドキドキ。え、この状況どうすんの? とついつい主人公・凜を心配してしまう。

そして、なんの力もない少女が、みずからの思いだけを頼りに、知り合った人ならざる者たちすべての力を借りて、ひとかどの優しさを持ちながら厳しくも圧倒的な存在に人の理を示してみせる。

結末は、まさに大団円。

雪と氷と吹きすさぶ風といった、冷たい世界の出来事ながら春のうららかさを思わせる暖かな読後感がある。

ただ、読み終わった後に、少女が迷い込んだ幻想的な市には、もう二度と立ち寄ることが無いという事実をふと寂しく思う。人と人ならざる者たちが生きる時間軸はあまりにも違い、永遠の別れといった寂寥感を感じさせるのは、この作品が百合故なのだろう。