第21話 デート【withあーちゃん】②

 今日はあーちゃんと外出。

 昨日は舞で立て続けに休日用事が入ることは滅多にない。

 

「で、本当にここでいいのか?」


「うん、私ここ来たことなかったから」


 俺たちは今、ラウンドツーに来ている。

 ラウンドツーは俺もあまり来たことがないが、総合遊戯施設で、中にはボウリングだったり、カラオケ、ゲーセン、インドア系のちょっとしたスポーツを手軽に楽しむことができる。

 ここに来るのは何年ぶりだろうか。前来た時とはだいぶ変わっていて何で遊べばいいか分からない。

 とりあえず、一階のフロアにあるゲーセンで遊ぶか。

 俺とあーちゃんはゲーセンのフロアに入る。

 

「すごい……UFOキャッチャーがいっぱい」


「そうだな。普通のショッピングモールとかにあるゲーセンよりは確実にあると思うぞ」


 あーちゃんは驚きの表情を浮かべながら、俺の隣を歩き、キョロキョロとしている。

 あまりにもキョロキョロしているため、俺もついそのおかしさに吹き出してしまう。


「な、なんで笑うの!」


 そう言って、顔を赤くしたあーちゃんが俺の肩をぽすっと軽く叩く。


「ごめんごめん。めちゃくちゃキョロキョロしてたからついね。あーちゃんはこういうところ来たことないのか?」


「うーん、来たことはあるけど、そんな頻繁に行くってことはなかったかな?」


「そっか。まぁ、でも、あーちゃんがゲーセンに来るってこと自体想像につかないもんな」


「りょーくん、それってどういう意味なの?」


「あーちゃんはそれくらい真面目に見えるってことだよ」


 周辺はUFOキャッチャーの機械音や案内アナウンス、様々なゲーム機の音で騒がしい。

 家族連れや友達、カップルで各ゲームを楽しんでいる中、俺たちもその中に溶け込むようにゲームを楽しむのだった。



 一通り楽しんだところで別のフロアに移動しようかと思っていた頃。

 あーちゃんが何やら早く来てと言わんばかりに手招きをしている。

 俺はなんだろうと思いながらもベンチから離れると、あーちゃんのところに向かった。


「どうしたんだ?」


 そう訊くと、あーちゃんは目をキラキラと輝かせながら「あれやろ!」と、指で示す。

 その方向にあったのはプリクラだ。

 

「プリクラ撮るのか?」


「うん! やっぱりゲーセンと言えば、プリクラでしょ!」


「そうか?」


 ゲーセン=プリクラという認識について議論の余地はあるが……まぁいいか。それは人それぞれだと思うしな。

 あーちゃんがプリクラをやりたいと言っている以上、俺は別に断る理由もなく、機械の中へと入る。

 正直言うと、プリクラ自体が俺にとって初めてだ。ここでファーストキスならぬ、ファーストプリクラを迎えるとは思ってもみなかった。


「ほらほら、ちゃんとポーズ取らないとダメだよ?」


「あ、ああ……」


 案内音声に促されるまま、あーちゃんはポーズをいくつか取っていく。

 ––––本当にゲーセンはあまり行かないのか……?

 そう思わせるほどにプリクラは慣れたように見える。

 大体、ゲーセンにはプリクラが必ずと言っていいほどに置かれている。

 というか、そもそもプリクラ自体がゲーセンにしか置いていないと思う。よく店の端っことかにあるゲームコーナーとかにはプリクラは置いてないだろ? UFOキャッチャーはあるけどさ。

 俺はどんなポーズを取ればいいか、次第に分からなくなっていく。慣れない空間というのもあるだろう。

 そんな中であーちゃんが突然、俺の腕を抱きしめ、いきなりくっついて来た。


「お、おい、いきなりどうしたんだよ」


 すると、あーちゃんはどこか色っぽい表情を浮かべ、


「これもポーズですよ?」


 そう言って、俺の腕を豊満な胸に沈めていく。

 ––––え、何? この柔らかいマシュマロは?! もう、こんなポーズがあるなんて……プリクラ最高だな、おい!

 顔が自然とニヤけてしまう。


「じゃあ、次のポーズいくよ?」


 そう言った次の瞬間だった。

 ちゅっ。

 俺の頰に柔らかい感触が伝わって来た。

 それは、熱を籠もった何かであって、しっとりと湿っている。

 パシャっ。

 撮影が終わった。

 俺は放心状態のまま何が起こったのかが分からない。


「何を……?」


 俺はいまだにくっついているあーちゃんにそう尋ねた。

 あーちゃんの甘い匂いがするくらい近い距離で小悪魔的なニコッとした微笑みを浮かべ、


「キス……ですよ?」


 あーちゃんの上目遣い、ほんのり赤くなった頰。体が密着しているせいでお互いの体温が混ざり合い、気温は高くないのに熱い。

 腕が胸に沈められているということもあり、あーちゃんの心臓の鼓動が微かに伝わって来る。

 ドクンドクン。

 心臓の鼓動が次第に早まり、息が荒くなっていく。

 それと比例して、俺とあーちゃんの距離がだんだんと縮まっていく。

 ––––ちょ、ちょっと待て! なんで近づくんだよ!

 俺は心の中でそう叫ぶが、見えない糸で引き寄せられているみたいで、離れることができない。

 次第に俺とあーちゃんの距離がゼロに近づこうとしている。

 あーちゃんは目を閉じる。

 

「な、何やってんのよ! このバカっ!」


 バコンッ!

 ゼロになろうかとした瞬間、後ろから何者かに頭を強く殴られた。


「「いたっ?!」」


 その反動で俺はあーちゃんに頭突きを食らわせてしまい、二人してプリクラ機の中で痛みがする部位を抑えながら悶絶する。

 

「ごめん! 大丈夫だったか?」


「う、うん……」


 ほどなくして、痛みが引いたところであーちゃんに謝ると、あーちゃんは、どこか残念そうな表情をしながらそう言った。

 それにしてもだ。さっきのは誰がやったのだろう?

 声的には聞き覚えのあるものだった。一瞬、舞なのかとも疑ったりしたものの、あいつが俺の用事を知っているわけでもないし、こんなところに来るはずもない。

 ––––じゃあ、一体誰なんだ……?

 俺の中でその疑問が妙にざわざわして、むず痒かった。



「本当に何してんのよ……あのバカ」


 あたしはプリクラ本体の影に身を潜めている。

 今日は、なるべく地味目で目立たない格好をしてきて、帽子とサングラス、マスクをしているおかげでバレずに尾行をすることができているのだが、一時期はりょーすけと早坂がき、キスをするのでは……と、ドキドキして同時に嫌な感じが胸の中でざわざわして、つい飛び出して、頭を叩いてしまった。

 幸い、なのかな? 早坂もキスをする気満々で目を瞑っていて、りょーすけも後ろ姿だったのでバレずに済んだんだけど……


「ほんっとうにムカつく!」


 さっきからイライラして、ムカムカする。

 りょーすけと早坂のイチャイチャな一部始終を見てしまったからだろうけれど、それにしても……あれはなんなの!? 急に二人きりの空間になった瞬間、早坂のやつりょーすけにべたべたとくっついて。挙句にはりょーすけの腕を自分のお、おおおおっぱいに押し付けるんだよ?! 破廉恥すぎるでしょ! それに対して、りょーすけはニヤニヤと気持ち悪い笑みをだらだらとこぼして……正直、乗り込んで文句くらい言いたかった。でも、昨日はあたしがべたべたとくっついていたからそれを考えると……何も言えない。

 とりあえず、二人が今何をしているのか様子を伺う。


「どうにか回避はできたみたいね」


 りょーすけと早坂はまだ後頭部と額を手で抑えて悶絶していた。

 –––ちょっと強すぎちゃったかな?

 だいぶ加減はしていたつもりだったんだけど……。

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