連勝

 俺は五十公野軍一千の兵士を率いて加地城を目指した。加地城は新潟と新発田城の間にあるが、どちらかというと新発田に近い。もしかすると俺が新潟方面に出陣したため先行してそこを占拠しようとしたのかもしれない。


 あまり時間をかけすぎると加地秀綱が勘付いて城に戻ってくるかもしれない。道如斎が秀綱に引けをとるとは思えないが、状況によっては秀綱が敗走して城に戻ってしまうかもしれない。一千というと戦国時代の合戦では大したことない兵数だと思っていたが、実際に行軍してみるとかなり多い。ざっくり言えば小学校の生徒全員が校庭に集合したぐらいだろうか。その兵数をまとめて行軍するのはかなり難しい。


「よし、騎馬隊は俺に続け!」

「うおおおおっ!」


 本来はあまりよろしくない戦法だが、俺は騎馬隊二百ほどを率いて先行することにした。隊列は乱れるし俺の指揮が後続に届きにくくなるので襲撃を受けるとひとたまりもない。だが、行軍は速くなるし広さに限界のある道なども素早く通りやすくなる。

「このまま加地城を奪う!」

 加地城は城とはいえどちらかというと館に近い城であった。小高い山の上にあるが山城というほどでもない平凡な城だ。

 新発田軍の急な出現に加地城は慌てふためいた。新潟方面に向かっていた新発田軍が秀綱の軍を迎え撃たずに城に向かってくるとは言え油断があったのだろう。


「かかれ!」


 俺の指示に騎馬隊は勢いを緩めずに城へ突撃する。兵力は二百だったが、勢いのまま突撃したため城兵にはもっと多数に見えたかもしれない。ぱらぱらと矢が飛んでくるが一人二人が倒れたところで勢いは止まらない。たちまちのうちに城壁際までたどり着く。

「城壁を乗り越えろ!」

「敵襲だ!」「兵だ、兵を集めろ!」

 こちらが城壁に迫っている間に敵兵は慌てて準備を整えているようだったが、それで間に合う訳がない。一人の兵士が城壁を乗り越えると内側から城門を開ける。


「突撃!」

 馬に乗った兵士たちは怒涛の勢いで城内になだれ込む。城門を破られた城兵たちはなすすべもなく退却した。城内を占拠していると後続の兵士も到着する。ようやく城兵は城下の農民などを集めて態勢を立て直したがもはや後の祭り。

 そこへ知らせを聞いた加地秀綱の兵士が慌てふためいて駆けつけた。その後から道如斎の軍勢が追撃する。が、城が落ちたのを見て両軍とも戦うのをやめた。それを見て俺は使者を秀綱の元に送る。


 間もなく、白旗を掲げた秀綱が数人の供回りとともに城にやってくる。行きがかりで敵味方に分かれたとはいえ、同族である。俺は城門を開け放つと自ら秀綱を出迎えた。

「いやはや、さすが新発田の軍勢は手ごわい。完敗だった」

 秀綱はそう言って豪快に笑う。今の今まで干戈を交えていた相手でこんな感じなのかと思っていたが、治長の記憶によるとこんなものらしい。毎回相手を滅ぼさずに戦争を終えるから戦争が終わらないのだろう。とはいえ、別に俺も野望に燃えている訳でもないし、秀綱は同族なのでそこまでする気はない。


「一族で敵味方に分かれるのは戦国の習い。勝ち負けもついた以上水に流そう。城もお返しいたす。条件は今後我らに味方してもらうこと、もう一つは我らの三条城攻めに協力してもらうことだ」

「ほう、治長殿は我らだけでなく三条まで攻め入るのか」

 三条城は神余親綱と長沢道如斎が奉行をしていたが、乱の勃発により親綱が武力で占領していた。

「その辺りまで攻め入ればこの辺りで我らを脅かす者はいない。上越では景勝殿と景虎殿が争っていようが、我らは力を溜めておこうではないか」

「さすが治長殿。お見事な意見じゃ。では我らも人質を出そう」

 自分から人質を出すとは殊勝なとは思ったが聞くと家臣の娘らしい。その辺りも戦国時代が終わらない原因だと思う。

 揚北衆は自立性が強く、一部事情がある者を除けば景勝にも景虎にも思い入れはない。だから秀綱も俺の言葉に素直に頷いた。

「それでは作戦だが……」


 俺が考えた作戦は単純である。加地城の戦いで敗れた秀綱は兵を連れて逃亡する。逃亡するのは周辺の景虎方である神余親綱の三条城である。戦闘で負傷した兵士を連れた秀綱が逃亡してくると親綱は深く考えずに城門を開けて出迎えた。

「申し訳ないがこれも戦国の習いでな!」

 途端に秀綱らは刀を抜き、神余軍に襲い掛かった。

「謀ったな!?」

 当然親綱は激怒して応戦。たちまち激しい斬り合いになったが、そこへ俺が再び騎兵を率いて急行する。油断していたところに立て続けの襲撃を受け、たまらずに親綱は敗走した。こうして俺は加地秀綱を味方につけ、三条城も落としたのである。

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