【恋愛】「コンビニ」「安いチューハイ」「愛を叫ぶ」

 もっと酔える酒を買えばよかった。

 コンビニに入り、さほど悩むこともなく飲み慣れた安いチューハイを手にした自分を呪う。

 こんな時こそ度数の高いアルコールを選んで意識を飛ばしたかった。


「千鳥足になって転んだらかっこ悪い」

「前後不覚に陥って人様の迷惑になってはいけない」

「そもそも、夜の海までやって来て酔っぱらいと化すなんて女々しさの極みだ」


 生来の理性の強さが邪魔をして、苦い記憶を忘却することより、無茶をすることへのリスクに天秤が傾いてしまった。

 こんなだから、肝心な時に肝心な一言が言えないのだ。

 こんなだから、意中の女性を親友が横からかっさらっていっても何も言えないのだ。

 知り合ったのは自分の方が先だったのに。

 偶然顔を合わせた親友が彼女に惹かれ、あっという間にアプローチをかけても黙って見ているだけだった。

 きっとヤツは、挨拶するのにどんな言葉をかけようかなんて考えやしない。

 どんな話題を振れば喜んでもらえるか、どんな相槌を打てば安心してくれるか悩むこともない。

 相手の反応を先回りして躊躇する自分と違い、自ら心を開いて彼女の懐に飛び込めるヤツが心底うらやましかった。


「俺だって、好きだったんだよ……っ」


 こんな広大な場所に来てまでも、酒の力を借りてまでも、愛を叫ぶことができない自分は。

 舌に馴染んだぬるいチューハイを片手に、自身の思いを吐き出すのが精一杯だ。

 

 絞り出した声は、さざめく波の音でいとも簡単にかき消された。

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