二月十四日の恨言唄

律稀

二月十四日の恨言唄

「友チョコなんて、“友だちごっこ”の具現化みたいなものじゃん」


 こんなこと言ってても、誰も聞いてないのにね。余熱してるオーブンの動いてる音が煩わしい。冷蔵庫で寝かせてる生地も、あと数分で取り出さなくちゃいけない。家に誰もいない時にこんな独り言なんて、私はなんて痛い奴なんだろう。人がいてもいなくても痛いのは同じだけど。


「だいたいさ、大して親しくもない人にも配らなきゃいけない風潮って何なの? てめぇら特に今まで私にいいことも悪いこともしてなかったじゃん。お互いに作らないで終わりで良くない? そもそも私お菓子作りはじめ料理上手い訳じゃないんだけど。材料費ばかにならないし」


 小学生の時からこんな風潮あったよな。何でか知らないけど、私には結構唐突に感じられた。小学校一年生、とかそういう時期はバレンタインって、テレビでそういう特集やってたり、お母さんがチョコくれて嬉しいなーくらいのイベントだった。高学年入ってからだよね、あの「私バレンタイン友チョコ作ってくるから、皆で交換しようね」とかそういう無言の圧力みたいなもの出来たの。明らかに手抜きのやつ……いわゆる私みたいな奴が作る、溶かして固めただけの、手作りと言えるのかよく分からないもの渡すとちょっと白い目で見られるの。


 改めて考えると、小学生って面倒くさいな。いや、中学生でも高校生でも大概面倒くささは感じてるけど。小学校高学年。軒並みの女子共(口悪い)が、「自分は女である」という一種の帰属意識的なものを持ち始める時期。その波に乗れなかった私の恨み言の唄だ。

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