【ダークファンタジー】かつての勇者、再び

お題「緑色」「影」「いけにえ」

ジャンル「邪道ファンタジー」


熱い話が書きたくなりました。

――――――


 ゴォオオオォという激しい地鳴りが響き、大地が激しく揺れた。

 それと同時に、配下の者が飛び込んでくる。


「魔王様、大変です! 勇者が【滅びの葬送曲】を発動させました!」

「それはまことか。古代魔法は聖なる民を生贄に捧げる必要があるはずだが」

「そ、それが、勇者は自分と仲間の命を生贄として差し出したようです!」

「勇者め……始めからそのつもりであったか」


 奥歯がギリリと音を立てる。

 死に際の勇者の瞳が脳裏に浮かぶ。あれは、大罪を背負う決意の瞳だったか。

 国王も民も、こうなることを承知のうえで彼を送り出したのだろう。


 ――この世界ごと、魔族を滅ぼす。

 それが、人間どもの出した結論なのだ。


 そして、勇者は古代魔法を発動させた。

 このままでは、魔族だけではなく人間も動物も植物も、この世界に生きるありとあらゆるものが滅びてしまう。


 不気味な影に侵された空を見やれば、そのすべてが深緑色に覆われていた。

 次の瞬間、ばくりと音を立て、空が大きく割れる。

 その裂け目から覗いたのは、あまりにも巨大な「目」だった。

 は地上を舐めるように見回したあと、嘲るように笑った。


 我は身をひるがえし、勇者の死体へと近づいた。


「魔王様、な、何をなさっているのですか」

「愚かな勇者がしでかした過ちを正すのだ」


 死体の側に放り出されていた聖剣を手に取ると、懐かしい暖かさが体中に満ちる。どうやらこの美しい剣は、魔王に身をやつしたこの我を、かつての持ち主だと覚えていてくれたらしい。


 先代の魔王が呼び出した、古代の悪魔。

 かつて勇者としてこの城に辿り着いた我は、仲間の命を失い、闇の魔力に体を蝕まれながらも、ようやくその悪魔を封印した。

 そのときに力を貸してくれたのが、この聖剣だった。

 あの古代の悪魔と、ふたたびこのような形で対峙しようとは。


「……これも因縁か」


 そう呟いて聖剣を大きく振るうと、応えるように強い光が天へ向ってほとばしる。

 この世界に残された唯一の希望。それがこの手にある限り、何者にも負けるつもりはない。

 かつて勇者と呼ばれた身の、この命に懸けて。

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