第9話 洒落頭……

 天正1年。武田信玄が薨去こうきょした。甲斐源氏の惣領そうりょうであった名将が死に、甲斐武田家の一時的な惣領と見做された諏訪四郎勝頼が惣領となった甲斐で、金春流の流れを汲む土屋長安が、二本の金属の棒を使い庭先で使用人相手に世間話をしている。


「土屋様。その棒は何ですね?」


「ほうか! 聞きたいか!」


「土屋の旦那の世間話は金言。一言一句漏らさず聞こうと、厠を我慢したら、小便漏らしたって、笑い話で茶を沸かせる!」


「ほうか!」


 土屋長安。


 後の大久保長安が、甲斐武田家の家臣であった時代。

 甲斐武田家惣領が、諏訪の神官の娘を母に持つ諏訪四郎勝頼に決まった事。諏訪四郎勝頼には子供がおり、武田信玄の孫としての諏訪四郎勝頼の子供が惣領になる迄の一時的な武田家宗家として、諏訪四郎勝頼が跡を継いだ。

 諏訪の神は守矢の神とされた。

 鹿を屠る儀式を持つ諏訪の神。

 藤原氏の春日大社の鹿と、鹿島神宮(常陸一之宮)の建御雷神に負けた建御名方神を諏訪の神とする諏訪大社で鹿を屠る儀式を行う事は、神話上で理解出来る。

 守矢の神とされた諏訪大社の神は、永劫諏訪から出ない事を条件に許された神だ。

 守矢の神は諏訪に居る。

 そこから出ない約束で許されたのだから……。

 松平忠輝公……。

 徳川家康公の第六男付きの家老だった大久保長安が、アマルガム製錬法で金を精製した事実は歴史の教科書で小学生が勉強する事実だ。

 水銀を使って金の純度を高める、イスパニア伝来のアマルガム製錬法。

 水銀が不老長寿の妙薬とされたのは、金を体内に摂取すると、金が体内で不純物を吸着し、体外に出すからだ。

 金箔を浮かべた酒。

 金箔を貼った髑髏……。

 織田信長公の義弟。実妹、お市の方の旦那だった義弟、浅井長政公のシャレコウベを杯に、酒を飲んだとされる織田信長公。


 体内から癌の原因ともなる毒素、体内異物をデトックス=除去する為の純金自体が不純物を含まないよう、精錬時に必要な水銀。


 水銀鉱脈は高野山金剛峰寺近辺に眠っているのだ……。


「土屋の旦那。その二本の棒で金掘り出来るってのは本当ですか?!」


「ほうだ! このかねの棒を使って、金の場所を当てる!」


 水晶鉱脈のある場所に金鉱脈がある。

 水晶が周期的な波長を出し、水晶時計=クオーツ時計が周期的に時間を刻む。

 諏訪精工舎は、クオーツ時計を世界で初めて作ったSEIKOと言う、時計メーカーになった。

 甲斐武田金山と諏訪の水晶鉱脈……。

 諏訪の神、守矢の神が、東西の狭間で、諏訪湖の御神渡りを見る時、東西の大地がせめぎあい、冬の諏訪湖の氷に道を作るのだ。


 龍の道……。


差助サスケー!」


「差助。ウドが腹減ったって!」


 蛍が先にお結び、お握りに味噌を付け、全て食べた後でサスケに言う。


「俺はほしいを湯漬けで食べたから、一個もない! あげらんない!」


 雑兵は糒という完走させたお握りに湯を掛けて食べる。

 非常食でもある。味噌と糒。

 湯を沸かすだけでいい。

 笑いで沸く茶。

 怒りが沸く。

 臍周囲の筋肉を電気で鍛える電位は、相手に触った時、その筋肉電位と言う共通の周波数で、相手の筋運動を支配しようとするだろう。


「差助ー!」


「差助。ウドが泣いてるぞ」


 バイアグラと胡坐あぐらが関係あるか知らないが、胡坐で倍化する精力が、蛇として頭上に上昇するなら、胡坐をかかず、お茶を呑めば、荒魂が鎮魂出来るなら、織田信長公が勧めた茶道さどうは、貴族文化で武士の荒れた魂を鎮め、泰平の世界を導こうとした事が理解出来る。


 茶道、蹴鞠道……。


「信長様に在らせられては、この青磁の壺の由来を既に知っておられたようだ」


 高値が付く青磁の壺は希少価値がある。存在する数が少ないから高値が付くのだ。

 千利休が信長公お目見えして、梅干しを入れる青磁の壺の箱に刻まされた文字を読んだ時、信長公は四書五経から、その語句が書かれた箇所をそらんじた。

 飛鳥井あすかい紫乃武しのぶの傍で、琉球から来た商人が庭で遊ぶ少女を見つめる。飛鳥井紫乃武が養う少女の名前は、有紗アリサと言った。伴天連が日本人の女性に産ませた子供だとも言う。


「信長様は、惟任これとう日向守ひゅうがのかみ様に丹波平定を指図したようだ」


「飛鳥井様は、丹波一たんばはじめと旧知の仲だそうで」


山窩サンカの民。武田に乱破らっぱはいるが、乱裁道宗の名前を受け継ぐ丹波一たんばはじめと波多野家の関係は強い。京の都がある丹波国の丹は丹生にうであって、丹とは水銀の事でもある」


 紫乃武が有紗を呼んで、毬を与えた。

 手毬唄。

 毬で大地を固めるのか。

 手で付く毬と、足で固める大地。

 戦乱が起きる場所。


「紫乃武様と日向守光秀公は仲が良い。丹波平定に斥候として飛鳥井蹴鞠道宗家筋の紫乃武様が送られるという事は……」


「日向守様の惟任は、島津家由来。頼朝公側室の丹後局が京の稲荷社で産んだ子供が、源氏傍系の島津家だ。源氏として征夷大将軍になれる血筋……」


 飛鳥井紫乃武は、狩衣かりぎぬ烏帽子えぼしを被り直す。


「土岐源氏でもある明智光秀公。信長公の本姓は伊勢平氏……」


 信長が排する源氏。

 甲斐源氏の祖は新羅しんら三郎義光よしみつ

 甲斐の惣領、武田信玄は薨去した。

 平家再興を果たさんとする伊勢平氏の信長公。

 北朝系天皇家は足利幕府。栃木県=下野しもつけ国の足利。

 偽天皇家とされた北朝系幕府か。花の御所として、足利幕府時代の文化を破壊しようとした信長は平氏だった。

 頼朝が起こした幕府が、草刈り鎌の鎌倉なら、草を薙ぐ剣を熱田神宮で祀る神官の娘を母にしたのが頼朝公だった。

 草刈りをする農夫。

 戦場作りをする大義名分を作るのか?

 蹴鞠の足場である懸場かかりばを作る蹴鞠道……。


 戦国蹴球……。


 丹波の地を睥睨する伴天連の相貌……。

 クルスは切らない。

 腕組みをして、その灰色の双眸の視線の先は、丹波の地で虐げられた山窩サンカの村人のむくろだった。

 信長は天正1年頃から紀州雑賀攻めを行っている。

 浄土真宗門徒と結託した雑賀衆が、平家の平親宗と関係があっても、浄土真宗の本願寺と結託した雑賀衆の雑賀孫一(鈴木孫一)らを攻めない理由にはならなかった。


 暗雲立ち込める懸場かかりば中央。


 鶴翼の陣を布く山窩衆に対して、飛鳥井紫乃武が布陣する。

 ワントップ。

 二人のファンタジスタとして攻撃的MFが二人。

 一人一人を頂点とする三角形が左右にあり、MFが六人。

 三人のDF。

 鳥居を守るGK。


 アメリカンフットボールは、攻撃と防御の交代制。

 一方が攻撃する時、相手は防御だけだ。

 鳥居を交代で守り、神社を守る神道シフトとする為の、ゴールドとブルーのクルーを決める潜水艦のシフトのような、神社の狛犬を決める為の戦い……。

 お賽銭をドロする存在もいる。

 神社に祈願をする武将。

 合戦勝利を願う武将が掲げる祈願文を守る為か……。

 神社を焼かない筈の武将……。


 自分を神とする信長は、第六天魔王、他化たけ自在天として、自分を仏教の悪魔とした。

 仏教で天部とは神の部類の事だ。

 仏でも、明王でもない、梵天とはブラフマー。帝釈天はインドラ神。天部は神。

 仏教を内部で破壊する神が天部としての他化自在天。

 頭上の烏……。

 太陽神アポロンが使役していた烏の羽は白かったが、アポロン神殿でアポロンが妻コロニスを間違って弓矢で殺してしまった後、その責任を取らされた烏の羽は黒くなったという。

 八幡の託宣。

 白い鳩の八幡。

 八幡の託宣を信じた平 将門公は朝廷に反逆し、伊勢平氏の祖である平 貞盛の従兄弟であった将門公の首は京で晒された。

 坂東太郎は利根川。

 相馬小次郎は将門公が受け継ぐ名前であった。

 平家の親王の家柄であった将門公。

 相馬郡守谷で、あがたの犬養春枝はるえだを祖父に持ち、右近の樹としてのオレンジの木、右近の橘として、たちばな諸兄もろえの家柄であった縣犬養家。

 橘家を落としたのが藤原氏だった。

 右近の橘と左近の桜の戦いは、右大臣と左大臣の戦い。

 左大臣が位が上であるのは、左が重要視されたからだった。

 菅原道真公が右大臣であった時、左大臣の藤原時平は、道真公を讒訴し、彼を政界から追放した。

 漢字文学、漢字の泰斗でもあった漢波羅かんばら

 カバラと漢波羅。

 平仮名で駄洒落で困る存在を救う漢波羅は、シャレコウベを救うのだ。

 駄洒落で苦しめる存在を駆逐する存在。

 平仮名文学で壊れた世界を救う漢字。

 洒落頭。

 洒落で困らせる頭か?

 烏帽子えぼし直垂ひたたれ狩衣かりぎぬ姿の飛鳥井紫乃武が、突然の雨の中、朱塗りの鳥居へ壮麗な舞を見せ、彼の足技が繰り出す妙技に見入った人間の目が踊る。

 視線が踊った後の瞬発の動きは、ファンタジスタの足技で、ボールではない足技だけを見てしてしまった後で、彼らだけに見えないボールが別の生き物のように蠢いていくのだ。

 頭上に蹴り上げた毬を追いかけるような昇竜……。

 紫乃武龍は右を頭に、その毬を横蹴りする。

 鳥居と同じ高さの毬が鳥居の横木にぶつかり、直下へ降下した。



鷺蔾さぎり……」


 左斬りは沙霧。


 雨粒を蹴る瞬速が草を薙ぐ。

 蹴り足で草を薙ぐ……。

 戦場の地均ならし。


 紫乃武の妙技、『鷺蔾さぎり』。


 京の都……。


「有紗さんな。何を書いておるんや」


 琉球唐手の使い手でもあった商人が預かった少女の手が「鷺蔾」の文字を墨で書く。

 習字で文字を勉強する有紗の筆跡は達筆だ。

 右利きの有紗の右横で、琉球商人の娘の真宙まそらが同じように真似する。


「漢字勉強してんねん……」


 口が利けないおしだった有紗が言葉を話すのは、心を許した相手にだけだ。


「ほうか……」



9ステージ タイムアップ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る