第39話 俺は答えを迫られる


「え……あの、」


 俺はどきりとする。


 まだ会って数時間だというのに、あっという間にそこまで見透かされてしまうとは。


 ただ、神楽坂先輩がそんなところまで相談しているとは考えにくい。神楽坂先輩の話を信じるのであれば、俺が神楽坂先輩に告白した前後、すでに難波先輩とは会っていないはずなのだから。


 ……そんなにわかりやすい態度を見せていただろうか。


「どっちが好きと言われても、先輩たちのことは別に……」


「そうか? なら、俺が告白してもいいか?」


「う」


 さらにどきりとする。


 胸のもやもやとした感覚がさらに強くなる。


「……ど、どっちに、ですか」


「ん? さあ、どっちだろうな? 三嶋君はどっちが嫌だ?」


「……」


 この人、意外に食えない。

 

 やはり伊達に生徒会長はやっていないということか。


「ははっ! 冗談だよ、冗談! 第一、俺もう彼女いるし」


「そうなんですか?」


「ああ、二瀬と。俺から告白してな……みんなには内緒だぜ。ここだけの話」


 見ている感じそんな素振りは毛ほども感じなかった。いたって普通の気心の知れた仲間との接し方だと思っていたが、まさかすでに恋人同士だったなんて。


「んで、三嶋君は結局どっちが好きなんだ? 俺も言ったんだから、教えてくれてもいいだろう?」


「……別に教えてくれだなんて言った覚えはないんですが」


 しかし、強く拒否することもなんだか憚られる。実際、もうほとんどバレてしまっている状態なのだから。


 意を決して、俺は難波先輩に打ち明ける。

 

「どっち、っていうか……その、俺、一度告白してるんですよ。神楽坂先輩には」


「おお、意外に行動派だな。俺なんて告白するだけで二年半かかったのに。……まさか、付き合ってはいないよな?」


「ええ、振られましたから」


「どんなふうに?」


「えっと……『君とは付き合えないかな』とかなんとか……すいません、俺も初めての告白で、緊張しすぎて覚えてなくて。ダメだったのは確かです」


 神楽坂先輩への気持ちで昂る感情と、告白の緊張、そして直後に振られてしまった絶望感がないまぜになって、わけのわからない精神状態だったことだけは記憶している。


 そういえば、普段はそっけない妹も、その時ばかりは優しかった気がする。立ち直るまで家事を替わってくれたり……気を遣わせて悪いことをした。


「ということは、正宗か」


「……はい。節操がないと思われるかもしれませんが」


「んなことねえさ。失恋のショックをしばらく引きずるのも、すぐに新しい人を見つけるのも恋ってもんだ。タイミングなんてわかんねえもんさ」


 あの時、失恋のショックで再び元の姿に戻ろうとしつつあった俺を見つけてくれ、立て直してくれたのは本当に感謝している。


 振られた後も生徒会の先輩たちや橋村と普通に接することができたのは、正宗先輩のおかげだ。


 そんな先輩の恩に報いたくて俺は頑張って、そして好きになって――。


「でも、難波先輩のおかげでわかんなくなっちゃいました」


 俺は今の正直な気持ちを吐露する。


 戸惑っている。今日知り合ったばかりの先輩に、果たしてこんなところまで言ってしまっていいのだろうか。


「……言ってしまえよ。ここにはどうせ俺と君しかいないんだ。まあ、盗み聞きされたらわかんねえけどな」


「そんな人生徒会にはいませんが……一応、声の音量を下げておきましょうか」


 生徒会以外だといるかもしれないが。あの神出鬼没な監視役の人とか。


 近くに誰もいないことを確認して、俺は白状した。


「……俺、多分まだ神楽坂先輩のことが好きなんだと思います」 

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