第37話 俺は先輩にダメ出しされる
体育館に訪れた元生徒会の人たちは三人。もちろん全員三年生だ。
まず目立つのは大柄な男の先輩。大和先輩よりも身長があり、体格はかなりがっしりとしている。
「もう、
「ん? おぉ、そうか、そうだったなすまん
「だからぁ……はあ、もういいわ」
その隣でうんざりした顔を浮かべている女の先輩。制服もきっちり着こなしており、九条先輩と同じようなメガネと、それから三つ編みにしたおさげ髪が印象的な人だ。
「や、久しぶりだね。神楽坂に九条に大和……それから、おっ! まさか、そこにいるのは正宗ちゃんじゃないか~!?」
「……お、お久しぶりです。
正宗先輩が胸を防御するように庇って、一歩後ずさる。笑顔も露骨に引きつっているし、もしかしたら、過去に何かあったのかもしれない。
印象としてはとても気さくそうな女の先輩、という感じだが。
「すまんな、神楽坂。本当は六人全員で来る予定だったんだが、他の三人は勉強で忙しくてな」
「いえ、こちらこそ、無理を言って本当に申し訳ないです。難波会長」
「おいおい、俺はもう会長じゃないぞ! ただの図体のデカい
予想はしていたが、どうやらこの人が前生徒会長らしい。外見からは柔道部かラグビー部の部長あたりでもやっていそうだが、人は見かけによらないものだ。
「ところで、そこにいる二人は新しいメンバーか?」
「ええ。おーい、二人ともこっちおいで」
神楽坂先輩に手招きされて、俺と橋村は難波先輩のもとへ。
「……うおお、デカ」
橋村がつぶやくが、俺もおおむね同じ意見である。
大きいことは遠くからでもわかったが、近くに来ると迫力が違う。クマと相対したような気分である。
「よう、一年生! 俺は難波和重元生徒会長! 前回の全国模試の志望校判定はEだ! よろしくな!」
「どんな自己紹介よそれ……私は
「私は
「なぜ私の胸を見るのですか、胸を!」
随分とキャラの立っている三人である。
特に存在感があるのは、やはり難波先輩か。知性は……まあそれほど感じないが、それでも不思議な魅力を感じる。
この人に生徒会に誘われたら、つい反射的にOKしてしまいそうな。
「どもっす。生徒会活動をサボらせたら日本一、橋村です」
「そんな日本一今すぐやめてしまえ。……あ、庶務の三嶋です」
「おお、君があの三嶋君か」
「? あの?」
難波先輩の言葉に、俺は首を傾げる。
あの、と言うぐらいだから、おそらく難波先輩は俺の名前を知っていることになるが。
「……ごめんな、トモ。生徒会を引き継いでから最初のうちは、色々相談に乗ってもらっていたから――」
「ああ、なるほど……」
生徒会加入当初の俺は本当にダメダメだったから、それも致し方ない。神楽坂先輩だって、難波先輩から会長職を引き継いでまだそれほど経っていなかったはずだから、どうしたらいいか相談することもあるだろう。
「ま、最近はめっきりそれもなくなったがな。良好そうでなによりだ」
「ええ。それはもう、おかげさまで。な、トモ?」
「……なんでそこで抱き着く必要があるんですか」
「いいじゃないか、後輩と先輩の仲だろ? ほれほれ」
まるで全員アピールするかのようにして、神楽坂先輩が俺のことを背後から抱きしめる。
もちろん、背中にやわらかいものを押し付けられているわけだが……なぜか、俺の視界の外にいる正宗先輩の視線が強くなっている気が。
「……ミッシーのスケベ」
「なんでお前まで微妙に怒ってんだよ。お前は助けろよ」
いつもはニヤニヤしてキモいだのウケるだの言うくせに、変な奴だ。
「ほほ~、これはこれは羨ましい状況だな、三嶋君! 死んでしまえばいいのに!」
「いくらあなたがモテないからって、一年生に大人げないわよ、難波君。……それより九条ちゃん、今日は演劇の練習を見て欲しいんだっけ?」
「はい。ある程度形になってきたので、前回全体投票一位の先輩たちの意見も聞きたいなと思って」
本題を切り出した二瀬先輩に、九条先輩が頷いた。
ウチの文化祭は、各部活やクラスの展示物や発表で、どこが一番素晴らしい展示だったか、来場者と生徒間での投票が行われる。
票を集めた上位三つは表彰され、記念品やトロフィーなどが贈呈されるのだが、生徒会はその常連だ。当時の記念品は、今も資料棚の上を所狭しと陣取っていたりする。
「おう、そういえばそうだったな! せっかくの貴重な休日、せいぜいお前たちの演技を楽しませてもらおうじゃないか!」
「気にしないで。偉そうにしてるけど、前回の劇、この人『壁』だったから」
壁……まあ、イメージとしてはぴったりだが。笑いはもちろんこらえる。
それぞれの挨拶が終わって、俺たちは演技を開始した。三年生三人はステージの最前列から、俺や先輩たちの演技をじっと見届ける形となった。
『――地位もお金も、大切な家族も。……色んなものを失った私だけど、今はとても幸せよ。だって、隣にあなたがいるんだから』
「はい、オッケー。なんとか詰まらずに通しでできたわね」
「へえ、今回の劇もなかなか。ねえ、真紀?」
「そうね。脚本もいいし、これから当日までの間で、完成度を上げていけば問題なく上位をとれるんじゃない? 男子がお姫様役っていうのも、インパクトあるし」
女性二人の評価はおおむねよさそうである。
しかし、その中で一人、難波先輩だけが納得していなかったようで。
「……どうしたの、難波君?」
「いや、俺はそうは思わんかな。特に、三嶋君が」
先輩に名指しされ、俺は戸惑う。
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