リサイクルショップに異世界へ通じる扉が開かれた~リサイクル交易物語~
MIZAWA
第1部 異世界交易
第1話 リサイクルショップ(でんでん)
僕、獅子沢博介(ししさわひろすけ)はただぽつんと交易会社の入り口で立ち尽くしていた。壁に張られた紙には派遣切りにあった人々の名前が書かれてある。
確かに獅子沢博介という名前が書かれている。
会社の場所は石狩の海岸沿いにある交易会社。
主に外国から仕入れてきているのは色々な加工品で、ようやく仕事を覚えていたときの派遣切りだ。
確かに最近の世の中は不景気だとかと囁かれていた。
石狩市に借りている宿舎から一週間以内に立ち退かなくてはならない。
僕はバイクと車の免許を二つもっているし、大型免許すら持っている。
それを強みにしてこの会社に派遣社員として入ったのだ。
しかし現実はそう甘くはなかった。
石狩市では車がないとやっていけない、バスがあるのだが2時間に1本とか、地下鉄とか列車は走っていない。
軽自動車に乗ると、絶望を糧に車のアクセルを踏んだ。
空と周りの景色が移り変わっていく、その景色ももう見るのが最後かもしれない。
次の派遣先が決まるまで、インターネットカフェで過ごす必要があるかなと考えていた。
宿舎に戻ると、派遣切りにあったのはなにも僕だけではないようだ。
宿舎にいる殆どの人達が派遣切りにあったようで、みんな荷造りをしている。
それぞれの移転先はとうの昔に探してあったようだ。
派遣会社を辞めて一般就労に入った人もいるほどだ。
僕は頭が痛くなる。
この交易会社で長い間働くつもりだったのに、あまりにも漠然とし過ぎて、人生が終わったのだとこの時思っていた。
宿舎には本が20冊と最低限度の家具があるだけだ。
布団などは支給されたので、返却するとして、軽自動車に電子レンジと冷蔵庫を詰め込み、ある程度の本棚と本を詰め込み、大家さんにいろいろと立ち退き契約などをして、この宿舎とお別れとなった。
1,2年はいただろうか。
不思議と仲間なんてものは作れなかった。
それが当たり前、皆それぞれの人生があり、それぞれがそれぞれに干渉しないようにしている。
軽自動車の中で、1,2年お世話になった宿舎に挨拶して、車のアクセルを踏んだ。
向かう先は前田区にあるインターネットカフェだった。
次の派遣が決まるまで、別口で就職も探そうとしていた。
そんな時目の前の信号が真っ赤に変わると、車のブレーキを踏んだ。
止まっていると、なんとか契約を切られていないスマホが鳴り響いた。
僕はそのスマホの連絡を派遣先が決まったものだと楽しみにしていた。
しかしそれは手稲区にいる実家の母親だった。
『あんた、父さんが、父さんがあああああ』
突然電話してきて切れた。
また電話がくる。
信号で止まっている間、電話をしている。
信号で止まっていても電話をしないほうがよいと昔誰かが言っていた。
何が起こるかわからないものだからと。
『ごめんなさい、ちょっと取り乱しちゃって、とにかく手稲区の実家に帰ってきなさい、父さんの葬式があるから』
僕は口が開きっぱなしになった。最悪な出来事は連鎖作用で起きる事があると占いの本に書いてあった気がする。
僕は車の行き先をインターネットカフェから手稲区にある実家に変えた。
――――――――――――――――――――――――
実家→葬式→火葬→リサイクルショップ(でんでん)
――――――――――――――――――――――――
実家に帰ると、どたどたと騒がしい事になり、葬式会場に行くと、沢山の人々がおり、こんなに父親は人望があったのだと感動し、弟の林介とはあまり話をする機会がなかった。
母親はお葬式用の着物を着こなしながら、涙を流して、皆に挨拶する。
そのあと大型バスで火葬施設に運搬され、父親は白い骸骨となって、親戚一同に砕かれていた。遺骨入れに入れられ、母親が大事そうに持ち運び、なぜか林助と母親の奈帆と僕はリサイクルショップをただただ見ていた。
父親の名前は狼介(ろうすけ)という名前で、この家族の2人の兄弟には介という名前がつけられている。
これは父親からの祖先から続いている習わしみたいなものらしい。
「父さんの遺書よ2人ともよく読みなさい」
林介はポケットに手を突っ込んで、不良みたいな顔をしながら、めんどくさそうに手紙を読んでいる。
そして林介は突然涙を流しコンクリートの地面に右手を思いっきり叩きつける。
次に僕は母親から渡された手紙を読んでいた。
そこには今まで面倒をかけてすまないということと、リサイクルショップを林介と一緒に育ててほしいということが書いてあった。
そしてなぜ父親がリサイクルショップにこだわるのかも書かれてあり、それは人が物を大切にしなくなったら人類は終わりだと大げさに書かれてあった。
沢山の父親の志とか野望が書かれてあった。
すごく僕は悔しくなった。
あの父親にこんな野望があったなんてと。
リサイクル交易、それが父親の野望だった。
「なぁ、林介、お前は珍しいものとかを売る、ぎりぎり法律に違反しない裏商売をやっているんだよな」
「ああ、そうだけど兄貴は交易会社だろ?」
「僕は昨日首を切られた。だから僕はこのリサイクルショップの店長になる。林介もなってくれないか」
「兄貴、俺は今の会社の社長を辞めるつもりはない、最低限度のフォローだけさせてもらう、親父の夢は兄貴が引き継いでくれ」
「そうさせてもらうよ」
母親は2人の兄弟が仲良く話し合う姿を見て目頭から涙が垂れていた。
僕は大きな欠伸をして、本当にやりたい仕事ってなんだっけと思い出す。
小学生の頃の夢に何を書いたか、
それは父親のリサイクルショップを引き継ぐこと。
そういう事を書いていた気がするんだ。
それを見た父親がすごく喜んでくれた。
それも覚えている。
父親のあどけない笑顔も覚えている。
リサイクルショップの扉を開いたのはその時だった。
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