侵略生活開始

「つまりこの孫子の兵法を使えば簡単に侵略ができるんだ!」

「たった4人で現代日本を相手にどれだけ役に立つと思ってんだよ」


 彼女と別れて一週間。

 未知との遭遇からも一週間。

 十二月三十一日。

 今年も残り数時間と迫った夕方。

 引っ越して三日目の新住居で、俺は三人の女の子に囲まれていた。


 別に彼女に振られたからって女遊びを始めた訳ではない。

 これ大事。

 むしろ俺は一方的な被害者だと思う。

 大体こいつら地球侵略に来た宇宙人だし。


 侵略者は地球侵略の第一歩として俺の生活を侵略してきた訳だ。

 お、今これ上手いこと言ったことないか?

 そうでもない? ああ、そう。


 ともかく、彼女らの地球侵略に協力することになり、俺の部屋をその前線基地とすることになってしまった。

 乗ってきたUFOに住めないのか、と聞いたら「お前は車に住みたいか?」とクサビに言われた。

 なるほど、と思ったので僕の部屋に住まわせることにしたが、流石に大学生が一人暮らしをしていた部屋にいきなり四人で済むことは出来ないので、さっそく引っ越しをした訳だ。


 幸い、彼女らはこの国の通貨を集めるにはあまり難儀しなかったようだし。

 ……手段はあまり詮索しないように。


「じゃあ秀吉の……」

「一回忘れろ。俺が作戦考えてやるから」


 さっきからうるさいのは侵略者のリーダー格のクサビ。

 見た目だけなら美少女だがこれは擬態で、本物はもっとエイリアンらしくグロテスクな姿をしている。

 個人的にはそちらの方が好みだが。


 クサビは好奇心が旺盛らしく、俺が昔ハマって集めていた歴史の本を読み漁っている。

 好奇心と同様に知性も子供並の武闘派なので、仕入れた知識を生かせるかどうかは甚だ疑問だが、まあ作戦立案は俺の役目なので問題はない。


 むしろ問題なのは。


「おいアカナ! ゲームばっかしてないで荷解きしろ!」

「あっ、やっ! すみません……。荷造りの時に見つけてから気になっちゃって……」


 段ボールからさっさとテレビとゲーム機本体、それからソフトだけを取り出して絶賛プレイ中なのはアカナ。眼鏡をかけた知性派と見せかけてゲームオタクと化した。

 一応参謀格らしいが……不安しかない。


 あ、こいつゲーム周りを梱包した段ボールにちゃっかり印付けてやがる。

 悪知恵だけは働くのか。


「…………」


 お湯を注いだカップ麺をただ見つめているだけのジキに至っては、なんとなく恐ろしくて声を掛け辛い。

 こいつも見た目だけなら茶髪のギャルといった感じなんだが。


 寡黙な技術者……で、食いしん坊キャラか。


「なんて言うかお前ら、侵略じゃなくて地球に帰化しに来たのか?」

「違うから! ちゃんと侵略するから!」


 クサビが必死で弁明すると同時に、電子音が部屋中に響いた。

 その場の全員が音の出どころへ顔を動かした後、たっぷり十秒ほどもかけて、ジキがスイッチを押す。


 トマト型のキッチンタイマーは、その瞬間だけピッと声を漏らし、そのまま黙った。

 茶髪の少女はもうトマトに関心をなくし、やはりゆっくりとカップに貼り付けられた蓋を取り……


「やめようかな、侵略」

「まあ待て、落ち着け! な?」

「そうですよ、ほら、私もうゲームしません! 今日は一日中働きますよ!」


 必死のフォローと麺をすする音が部屋中に響く。

 ああ、もう今年が終わるなぁ。

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