侵略者との遭遇

口は災いの元

 何故こんなことになってしまったのか。

 口は災いの元とはよく言ったものだ。

 あんな、ちょっとなんとなく勢いに任せて言ってみただけの一言でこんな事になるなんて。

 いや、確かにあの時は割と本気でそう思っていたさ。思ってたけどさ。

 まさかこんな事になるとは思わないだろ!?


 本気!?

 本気ですか!?

 ダメですよ!?

 本気で俺にそんなことさせるつもりなのかよ……。


 しかしやらなければ殺すと言われてしまえばやるしかない。

 いい加減、腹を括るべきか。

 一度深呼吸をして、覚悟を決める。

 何度かつっかえながら、やっとのことで言葉を絞り出す。


「わ……わ、分かった。お前たちに協力するよ」


 俺は、しどろもどろながらも目の前にいる三人の「宇宙人」達に宣言する。


「地球を……侵略しようじゃないか」



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 師走も下旬。年末の一大イベントと新しい年へ向けて世間が賑やかになり、日本人の宗教的信仰心の薄さが浮き彫りになる素晴らしい季節。


 この一週間で気温はどんどん下がり、それに比例するように俺の心も荒んでいっていた。

 今年は暖冬だとテレビでずっと言っているが、今年の冬は今までにないくらい寒く感じる。


 どれもこれもあいつのせいだ。

 クリスマス一週間前に俺を振って他の男の元へ走った彼女の。

 いや、もう彼女ではない。元カノだ。

 最低の裏切りをされたとは言え、好きだった気持ちを忘れられず、一週間経っても尚うじうじと悩んでいる自分が情けない。


 でもしかたないじゃないか。

 それでも本気で好きだったんだ。

 正直自分の全てを捧げてもいいと、いやむしろ捧げたいと思っていた。


 青臭いし泥臭い。そう言われても仕方がない。

 若さ故の過ちであり、視野の狭さだ。

 でも、自分のつまらない人生の中で、人間相手では初めて本気になった人だった。

 そんな彼女に裏切られ、俺の心はぶっ壊れる寸前。


 そして今日、世間はクリスマスイブ。

 普段信仰している訳でもない神様の誕生だか降誕だかを口実にあちこちでカップルがイチャついている。

 街並みは色とりどりのイルミネーションで飾られ、午後からは雪まで降り始めた。

 空から落ちる氷の粒が、イルミネーションの光を反射させ芸術作品の様にキラキラと光輝いている。


 そう、今日はもう最高のホワイトクリスマス!


 そんな日にバイトをしている俺。

 理由は?そう、予定が無いから!!

 あったら正午から夜十時まで、赤い服を着てカップル達に幸せを届ける仕事なんぞしない。

 むしろ届けてもらう側になりたい。

 バイト上がりに店を出てキラキラ眩しい街の中を歩いていると、いっそう眩しい仲睦まじそうな男女の姿が目に映る。


 すれ違う人の約七割がそんな調子なので、どんどん自分が惨めになってきた。

 駅前に差し掛かると、噴水広場の噴水に腰掛けて、道行くカップルをじっと見つめている人がいた。


 あの人はどんな気持ちで彼ら彼女らを見ているのだろう。

 あの人の目に俺はどう映るんだろう。


 ふとそんな考えが頭をよぎり、なんだかその場にいることがいたたまれなくなって、彼がこちらを見ないうちに家の方角へと走って逃げた。

 ああ、そうだ。このまま家に帰ったら映画でも見よう。

 怪獣モノか、それともエイリアン系か。

 こんな時は強大な存在が圧倒的な力でもって人々の幸せを奪っていく様子を見ながらほくそ笑むに限る。

 そして素敵なモンスターの造形に見とれながら寝落ちるんだ!


 薄暗い街灯が点々と並ぶ人気の無い住宅街に入ると、俺が住んでいるアパートが見えてくる。

 見慣れたその姿も今日は特に寂しげに映る。

 一度でも彼女を連れてきたかったとは思うが、こんなボロ屋に招くのもな、などと今更なことを考える。


 そんな自分がいっそう惨めになったが、しばらくその場に立っていると、無性に腹が立ってきた。

 自分が今こんな気持ちでいるのは、街中のカップルや駅前の変人、そして何よりクリスマスを祝う世間のせいに思えてきた。


 そんなふうに感じ出すと感情が止まらなくなり、涙を流すよりも先に、ついうっかり「その言葉」を大声で口にしてしまった。


「あーあ、人類滅ばねえかなぁ」


 その直後から、俺の記憶は途切れている。



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