負け組高校生は頑張りたい

饅頭屋せんべい

第1話 平穏はこうして崩れる

思春期とはなんでゃろうか……





やり直しをさせて欲しい。





take2

思春期とは何だろうか?恋とは何であろうか?




生まれてこの方1度も実感したことがない俺にとって、これは永遠に解けないようにすら思える難問だった。


だが一方でこの俺にも解けた難問はある。


そうそれは、『どうすれば現実にラブコメは起きるのか?』だ。


十数年かかったが、最近ようやく答えが得られた。


結論:早く夢から目を覚ませ、大バカ者が!



なんだか考えるだけで悲しくなってきたからもうやめよう……






=====






俺の名前は平生 翔人へいぜい しょうと


親は『将来、大空をけるように活躍するになって欲しい』という意味合いで付けたらしい。


小学生の頃は、そんな名前が大好きだった。


しかし高校生になった今では、呪いのようにしか思えなかった。


だって苗字が平生なんだよ?な人しか送れないと解釈できる上に、それをけるって……。


なんだか将来が不安にしかならないし。


まぁ、名前のことは今更愚痴っても仕方がない。


ただ問題なのはもう一つの方だった。


こちらは気持ち次第でいつでも変えられるはずなのに……今の今まで変えられなかった。


そう、何を隠そう俺は典型的な平凡学生だったのだ‼︎(いわゆるモブキャラだ。村人Sだ。)


運動能力は普通。勉強もだいたいクラスで上から12番目くらい(クラスは全員で30人)。1人暮らし……なんて恐れ多いこともしていない。


一般学生に輪をかけたような平凡な学生だった。


……えっ?それはただ取り柄がないだけ?そもそも1人語りしている時点でかなりイタい?うっせー余計なお世話だっ‼︎ あとイタいって言うヤツの方がイタいんだぜ、知ってたか?


俺だってこれはまずいと思って何度もなん度もなんどもナンドモ直そうとしてきたんだよ!


が、しかし、しかし‼︎ 克服することはなかったぁ〜

(そもそも本当に真剣に克服しようとしていたか自分でも怪しいところだが...)




ではなぜここでこのように1人語りをしているのか諸君は気になったことだろう。理由は目の前に広がる光景にある。



とっても簡単だ。



ちょうど目の前で、2人の美少女が口論をしているのだ‼︎


ラノベで言う「やめて〜、私のために争わないで〜!」という典型的なやつだ。テンプレだ。


確かにこのような展開をかけらも望んでいなかったといえば嘘になる。


むしろこの状況になったこと自体は嬉しくも感じている。


それは認めよう。


だがしかし、こんな修羅場は一切求めたことはなかった……。そもそも今まで通り特に生活を変えることなく過ごしていた自負もある。


それ故に今起きている事態が全く飲み込めずにいた。




……どうしてこうなった……






=====






始まりは数ヶ月前。



俺の1日は早い。


アラームが耳もとで激しく駄々を捏ねるのを右手で宥めて、ぼーっとした顔を水で綺麗に洗い流す。リビングに降りて既に用意されていた朝食(ご飯、漬け物、味噌汁)を口の中に掻き込む。


パンを口に咥えたまま学校へ全力ダッシュなどという青春真っ盛りイベントは起こしたことなど無関係だ。


だって俺は平凡な学生だからね☆あと、俺はパンよりご飯派だ。ここ、テストに出ます。


そして支度を始業1時間半前には済ませ家を出て、最寄駅から電車に乗って通学する。


学校に一番近い府近駅で降りると頑張って自転車を漕ぐ。駅から学校までは15分ほどだが、府近駅に着くのは始業12分前だ。


だから全力で漕ぐ。それはもう死力を尽くして漕ぐ。


そのおかげで今はまだ1度も遅刻したことはないし、朝から頭が冴えて一石二鳥だ。


朝から汗臭いのは難点だが……




息を切らしつつも教室に入ると、友人2人がこちらに気付いて話しかけてくる。


「朝からがんばるなー、翔人。もう一本早いのに乗れば急がなくても済むのに」


「こらー。そんなこと言っちゃ翔人くんが可哀想だよ、光輝。せっかく朝から頑張っているんだからそこは褒めてあげないと」


「俺のためを思ってくれているんなら、朝から俺の口に角砂糖を詰め込まないでくれないか」


「「???」」


朝っぱらから仲良さげでイチャイチャを見せつけてくるこの2人は岳乗 光輝がくじょう こうきとその彼女である月姫 桜つきひめ さくら


光輝は典型的なスポーツマンで、基本的に何をさせてもプロ級だ。勉強は並のようだが。俺とは全く釣り合わない。


月姫は光輝とは真逆で勉学がピカイチ。入試の成績は満点をとり主席入学をしていた。またつい先日行われた中間テストでも当然の如く満点を叩き出し、ぶっちぎりの一位。俺とは比べ物にならない。


分野は別だがどちらも洗練された才能を持っていた。


それにどちらも妬ましく思うのもバカらしいほどには整った顔立ちだった。


さらに優しく社交的な性格だ。


もしかしなくてもモテるに決まっている。ある意味では似た者同士なのかもしれない。


ウラヤマシイ……




……え?話が長い?ならば簡潔に言おう!


2人は俺とは全く違う世界の住人だ。


ならなぜこいつらが俺の友達をよろしくやっているのか、だって?


俺が聞きてーよ。


光輝とは教室でたまたま席が隣になったのでいつの間にやら会話するようになった。が、まさか5月中に彼女を作るとは思わなかった。


というかここまで大物同士が俺と交友を結んでくるとは微塵も考えてなかった。




妬ましいことこの上ないが仲良くしてくれている以上、無下には扱うわけにはいかない。


この気概があるからこそ優しい俺は温かく声をかける。


「朝から純愛を見せつけてくるなって、このバカップルめっ。吐き気を催すだろうが」


「毎朝のことだが、そんなに口が悪いから残念だよな〜。翔人がもっと物腰柔らかだったら絶対モテるのによお」


なんだと……⁉︎どの口がそんなこと言ってんだこら。ああん⁉︎


「うっせー、ほっとけ。俺はうるさい日常が嫌いなだけだ。それを避けていたら次第に1人で過ごすことが多くなっただけだっつーの」


「出たー、いつもの平生流言い訳。毎度毎度、よくそんなに思いつくよね〜。でも光輝の言ってることもホントだよ?『顔だけ美形コンテスト-男子編-』で翔人くん、7位だったんだから!」


なんだその変な名前のコンテストは……


というか、


「おい、そんな変なコンテストに応募した覚えなんて一切ないぞ」


「俺が勝手にエントリーしておいてやったぜ!まぁその後の『性格が残念な人ランキング』でダントツの総合1位を獲ってたのは流石に笑ったけどなw」


「喧嘩なら買ってやるけど?」


「まさか。むしろこの結果を注視しろよ。お前、性格さえ直したらモテるってことだぜ?」


「た、たしかに……」


いや待て。もしそれが本当なら頑張って直して青春をつかみ取ってやる‼︎ せっかくこの俺にもチャンスがあるんだからな!


あと、枕と精神安定剤も準備しないとねっ♪




ただこのままだと上手く言いくるめられたような気がして悔しいので、モブなりに主人公系キャラに反抗しようと思う。


「それはそうと光輝。この前言ってた子はどうするつもりなんだ?」


突然話の話題が変わったのでついてこれていないようだ。光輝も月姫もナンノコトカイミワカラナイと、目をパチパチさせている。


「ほらお前が言ってたんだろ〜。昨日告られたって。返事、どうしたんだよ」


「は?お前、何言って−−−」


「……コウキ?それ、ホント?」


光輝が振り返った先に広がっていた光景。それはもう、すぐにでも逃げ出したくなるほどの剣幕を纏った月姫が貼りついた笑顔を浮かべている姿だった。


「いや待て!俺はそんなこと−−−」


「コウキ、ソレホント?」


いよいよ月姫の瞳のハイライトが消え去ったので、部外者(火種)の俺は退散する。


「それじゃあお二人共、仲良くね〜」


「おい!翔人‼︎ 何しれっと逃げようとしてんだよ!お前が撒いた種なんだ、世話あとしまつもしていきやがれ‼︎」


「やなこった。夫婦の問題は夫婦間で解決しなきゃ意味ないでしょ。そういうわけでがんばってねー」


「くっっっそーーー‼︎ 覚えてやがれーーー‼︎ あと、まだ夫婦まで関係は進んでねぇーーー‼︎」


ずるずる引きずられていく光輝を尻目に、さっさと俺は自分の席に着席し授業の準備をする。




−−−ふっ。俺のことを甘く見たお前が悪い‼︎ ざまぁ見やがれ‼︎






=====






お昼休み。


俺は中庭で静かに正座させられていた。しかも芝生の上ではなく石畳みの上で、だ。


「なぁ、まだ怒ってるのかよ。反省してるって」


目の前には朝から痴話喧嘩をしていた例の2人が仁王立ちしていた。


「当たりまえだ」

「当たりまえでしょ」


仲良くハモってうらやま…妬ましいこって。




……もう少し目線を下にしたら月姫のスカートの中見えそうだな。がんばれ、俺!こんな美少女の嬉し恥ずかしを見られる機会は滅多にないからねっ‼︎


などと自分を鼓舞していると、心底蔑んだ視線で見つめてくる月姫が視界に入った。


「……いま、やらしいこと考えてたでしょ」


「いえ、、、そんなことはナイッす」


あっぶねー!人のココロの内が読めるとかもはやチートだろ。とにかくこれから月姫と話すときはポーカーフェイスに気をつけないと。


一方で光輝は、というと。


「友を貶めた報いだなw自業自得だw」


……とにかく笑っていた。それはもう楽しそうに、お腹が痛そうに。さっきまでは仏頂面だったくせに。


くそっ!腹立つっ‼︎


そうは言ってもこの状況を打破する算段はなかった。


結果として、俺の貴重な安らぎの時間は説教でほとんど潰れたのだった。


はあああぁぁぁ〜〜〜






=====







放課後の到来を知らせる最後のチャイムが鳴った。


それと同時に帰りの連絡を待つ僅かな時間でそそくさと帰る準備を始める。


これも俺の習慣として染み付いたことの一つだ。


……べっ、別に光輝と月姫以外に友達がいないわけじゃないんだからね!


あと、友達の定義から始めようじゃないか!




そして連絡が終わり、いよいよ放課。


いつも通りの何の変哲もない1日を終えようと席を立ったその時、不意にクラスのどよめきが大きくなった。


何事かとみんなが注目している方を見ると、そこにはなんと……‼︎


なんと……⁉︎




高校生ミスコンへも出場したことがあるほどの美女つわもの柑菜瀬 優奈かんなせ すぐなが入り口に立っていた。


正直あの少女の容貌の前には、生きとし生けるものが全て霞んで見える。


なぜか周りの者たちは普段以上に活力溢れているような気もするが気のせいだろう。気のせいだよね……?キットキノセイニチガイナイ。


全くと言っていいほど接点はないので、もうどうでも良くなった。というか、もともと興味がない。高嶺の花の効果って凄まじいよね。CMに出てる女優さんみたい。


柑菜瀬さんがいる扉とは逆の扉に手をかけたそのとき、それは起きてしまった。




「あの……、このクラスに平生 翔人さんはいらっしゃいますか?お話があるのですが」




みんなの喧騒が一瞬さざ波のように収まったのが背中でもひしひしと感じられた。


しかしその前に嫌な予感がした俺はセリフを全て聞き終える前に教室を脱した。


それはもう我ながらあっぱれなほど隠密かつ滑らかに。


明日からの学校生活に危機感を強烈に抱きながら、全力ダッシュで帰宅した。






=====






自宅にて、あの後の経過を光輝から教えられた(やたらと何かあったのか、と聞かれたのは相当うざかったが)。


なんでも、、、


曰く、柑菜瀬は平生に弱みを握られている


曰く、平生は以前柑菜瀬を助けたことがあり、その時の恩を振りかざしている


曰く、平生死すべし!


と根も葉もない噂が立ちまくっているらしい。


……というか、最後のやつは何?普通に身の危険を感じるんだけど?


また、当の柑菜瀬は俺が既に帰ってしまったことを知ると光輝に伝言を頼んできたらしい。



『明日のお昼休み、屋上で』




「ついにお前の良さに気づいた学年首席(美人ランキング)が、翔人に告ろうとしてきた‼︎」


などと、ふざけたことを言ってくるどこぞのバカ(光輝)がいたので往々にして事実を伝えてやった。




結局、呼び出されるいわれは全くなかったが、ことの顛末をとにかく知りたがる光輝にゴリ押しされて、昼休みに屋上に行くことなった。


……当然の如く、光輝と月姫バカップルは離れた場所から見届けるためにバレないようについていく、と主張していた。

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