ハッピーエンドの黒幕

結城愛菜

第1話 神の戯れ

3月。卒業シーズンが近づいていてそろそろ桜が咲き始めそうな頃。

とあるセレブ校の個室サロンで、言い募る女子の姿と困った様子の男子の姿があった。


「どうして私じゃダメなんですの!? この私がお付き合いしていただきたいとお願いしているのですわ。 狩野様はなぜお断りになるのです? どうしてあの子でなければいけないのですか! 」

「……綾瀬には申し訳ないとは思うけど、僕は 神月が好きなんだ。 本当にごめん。 周りは僕と綾瀬の家格がちょうどいいから婚約者扱いしてたし、今まで三人で仲良くしてたから言うに言えなくてさ。 でも、もうすぐ僕らは卒業するし、神月に想いを伝えるチャンスはもうあまり無いことに気づいたんだ。 」


そう言って狩野は寂しそうに笑った。そんな狩野を見た綾瀬は泣きそうになりながら言った。


「そんな……。 私が今何を申し上げても狩野様がお考えを変えられないことは存じておりますが……。 正直に申し上げて神愛かのさんは平民の特待生ですし、狩野様とは家格が違いすぎます。 狩野様は花族の中でも三家しかない遠縁とはいえ皇族である香爵位の後継でいらっしゃるのです。 今までのような関係は香爵として平民の暮らしを知るために必要であり、称賛される行いでした。 ですが、これが婚約者となると話は変わってきますわ!」


綾瀬はそこでいったん言葉を区切り、しっかりと狩野の目を見つめた。


「もし本当に神愛さんを婚約者にされるなら、親族からの非難などもご覚悟なさらないといけませんわ。 狩野様はその覚悟がおありですの? 」

「もちろん分かっているよ。 それでも僕は神月神愛が好きなんだ。 まだ認めてもらえるかも分からないけど、絶対に神月一人に苦しい思いはさせない。 綾瀬、断った僕にわざわざ心配までしてくれてありがとう。 」


狩野はそう言ってサロンを出た。 綾瀬は狩野がサロンを出るまで毅然としていたが、ついに狩野が出ていった扉を見つめた綾瀬の頬をはらりと涙が伝っていった。


「どうして……どうして、神愛さんなのですか! 未練がましい女にはなりたくありませんし、狩野様の前では申し上げられませんが……何故私じゃダメなのですか……。 」

「へー、 そーなんだ。 綾瀬さんは未練がましい女なんだ。 あははっ。 いやー、俺の想像ではもっとつんけんした人だと思ってたな。 」

「!! 誰ですの? 」


うつむいていた綾瀬がはっとして、サロンの扉を見るとそこには綾瀬を面白そうに眺めている男の子がいた。その男の子は綾瀬が驚いているのを見て、ますます楽しそうに笑った。


「あははは! やっぱ綾瀬さんは面白いなあー。 綾瀬さんからしたら初めまして、かな? 俺は神月神成しんじ。 神月神愛の従兄だよ。 以後お見知りおきを、綾瀬さん。 あ、花恋さんの方がいいかなあ? 俺のことはもちろん神成しんじでいいよ! よろしくねえ! 」


神成はそう告げた後、いたずらが成功した子供のように、にやっと笑った。

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