11話 ゲテモノ

「風紀委員会、罰則強制執行部一年の吉村です」

『どうぞ、開いておりますわ』


 扉を三回ノックし、声を掛けるとお嬢様口調の柔らかな声が返ってきた。

 部屋の中には、忠長の良く知る人物が三人・・、知らない人物が二人いた。


「えーと、いろいろとツッコむところがあるのですが……まず一言、これだけは言わせてください。お嬢、ここで何をやっているので?」


 ジト目の忠長の先には特徴的な銀髪をハーフアップにした少女──彼の上司である結城薫の娘、結城麗那れいなが優しく微笑みながら嬉しそうに彼を見ていた。


「あらまぁ、吉村様ったら。久方ぶりの再会だというのに、再会の抱擁はありませんの?」

「ありません。それで、この集まりは?」


 彼は部屋の中を見渡してから虹海の目を見る。


「風紀委員と生徒会の会議よ。ちょっと考えてることがあってね。忠長君達にも知っていてもらおうかと思って呼んだわけ。ね、雫ちゃん?」

「ん。吉村君は少し来るのが遅い。女子より支度が遅いなんて不思議」

「悪かったな、雫。用件は理解しました。俺達はここにいるだけで?」

「できれば会議にも参加してほしいな」

「了解」


 そう言うと、空いている座席に座る。


「それでは、今年度より開始予定の自警団についての最終調整を行いたいと思います」

「議事録は前回に引き続き、生徒会書記の水口みなぐちが行いますわ」

「よろしくお願いします」

「では。と言っても、殆ど詰めてしまっているんだけど……あと残っているのは──」

「自警団の結成時期と人数、選考方法ですね。自警団の管理は我々生徒会と風紀委員、共同なので、無線機支給の予算面からも勘案しなければなりません。現在、生徒会の方で自警団に使える初期予算は──」


 虹海、書記と続き、今度は会計が言葉を繋ぐ。


「二千万です。維持費の為の予算を五百万残すとすれば、我々の予算だけで購入できる無線機は六十五人分です」

「そうね……私たちとしても出せる限界は二千万ぐらいかなぁ……あ、これは維持費を抜いてね」

「そうすると、合計で百五十人ほどですね。とすれば──」

「予備を考えますと、百二十名程になりますわね」

「では、募集人数は百二十人ということで」


 凡そ学生の口から聞くことのないような金額を聞き、忠長と雫は互いの顔を見て、苦笑する。


「この人数だと結成時期は……六月頃かな? 今月に公表、募集を始めて五月から選考。六月初めに結成、一週間の風紀委員を伴った研修からの本格実施でいけるかな?」

「そうですわね。……大丈夫だと思いますわ。選考方法は単純に書類選考と面接で良いのではないかしら」

「うーん、そうだね。うちの情報部を使えば書類選考も早く終わるだろうし」

「では、そういうことでお願いいたしますわ。水口さん」

「はい、会長。すべて記録しました。後ほど、委員会室に届けます」

「ありがとう。公表は風紀委員でお願いしますわ」

「了解。じゃ、今日はこれで。あとは──」

「親睦会と行きましょうか♪ さ、水口さん」

「はい! 今年はですね、これを持ってきました! じゃーん! 最近有名なシュワシュワ君小豆ソーダ味!」


 目を輝かせながら〝どやっ〟と胸を張っている水口──水口咲綾さあやに対し、呆れたような視線を送るその他のメンバー。

 会計の高見沢泰正たかみざわたいせいに至っては、そそくさとその場をあとにするぐらいだ。

 シュワシュワ君。

 それは、味付き炭酸水を特殊な方法で凍らせて、口に入れると炭酸が弾けるような感覚に襲われる、新感覚氷菓子である。

 そして、そのフレーバーの種類がゲテモノ好き界隈から人気を集めているのだ。


「雫」

「ん。吉村君」

「「逃げるが勝ち! ──!?」」


 同時に走り出した二人は、扉に辿り着く直前でがっちりと肩を掴まれる。


「ねぇ、雫ちゃん♪」

「吉村様♪」

「「逃がさないよ(ですわ)?」」


 そのままずるずると引き摺られていく二人。

 なーむー。


 余談だが、後日、泰正の家の前に大量の〝シュワシュワ君詰め合わせ一ダース入り〟が結城麗那名義で届いたことをここに記しておく。

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