第25話【お見送り】

「おっきろー!!!」


「ぐへっ!」


耳の鼓膜が破れるかと思うほど大きな声の後に腹部に信じられないほどの衝撃がおそった。

恐らく声の主である母さんがヒップドロップを俺の腹部にくらわしたのだろう。


「起きなさい我が息子よ!」


「か、母さん。

お願いだから普通に起こしてくれ。

それが無理ならもう起こしに来るなってずっと言ってるよな?

そのうち俺死ぬよ?マジで」


「母親が来たのに起きてない透が悪い」


「いや、まだ6時ですよ、6時。

いくらなんでも早すぎ」


俺は枕元に置いている携帯で時間を確認しながら言う。


「だって息子と将来の娘に会えるから楽しみで眠れなかったんだもん♪」


だもん♪じゃねーよ。

歳考えろ歳を。

あと、将来の娘って言い方はどうよ。

なんか俺と一姫が結婚するみたいに聞こえるだろ。

変な期待させんな。


一姫に会えるのが余程楽しみだったのか今日の母さんのテンションは振り切れている。

普段は決してこんな巫山戯た感じの人では、、、ないと断言は出来ないが三割ほどはまともである。多分、恐らく、そう信じたい。


「あんた張り倒すわよ」


「何も言ってねーだろ」


「あ、あの〜朝食の準備が出来ました。

朝食は食べてきてないと聞いたので杏子さんのぶんも作りました。

よろしければどうぞ」


杏子は母さんの名前だ。

どうやら俺が寝ている間に自己紹介などは済ませたらしい。


そんな会話をしているとそーっと扉を開けながら一姫が入ってきた。


「あら、ありがとう。

さ、一姫ちゃん行きましょ。

ほらあんたも何時までもベッドの中に居ないでさっさと起きて準備しなさい」


「へーい」


母さんが一姫の背中を押しながら部屋を出ていくのを眺めつつ俺は適当に返事をする。



「おはよう」


俺は寝惚けながらゆっくりと準備をしリビングに入る。


「やっと来た。

どれだけ支度に時間かかってるのよ」


「別にいいだろ。

まだ家出るまで時間はたっぷりあるんだから。

誰かのせいで」


「何か言った?」


「いえ何も」


母さんが鋭い目線を俺に向けてきたので俺は反対方向に視線を逸らす。


「おはようございます、透くん。

朝食どうぞ」


「ありがとう」


オシャレな私服を着た一姫がフレンチトーストとお茶を持ってきてくれる。

こんな朝早くから手の込んだものをありがとうございます。


「いただきます」


「はい、どうぞ」


「それじゃ私達そろそろ出かけるからあんたも遅刻しないように学校に行きなさいね」


「え?

もう出るのか?」


時計を確認すると針は六時五十分を指している。


「出来るだけ今日中に終わらせようと思ってね。

私も仕事あるし一姫ちゃんも学校あるでしょ?役所とかって土日祝開いてないんだもの」


「なるほどね」


「なのでお弁当は作りましたけど晩御飯は作れないと思います。

ごめんなさい」


そう言って一姫がダイニングテーブルの上にお弁当を置く。


「ああ、わかった。

自分でどうにかするよ。

弁当ありがとな」


「はい、どういたしまして」


そう言って軽く微笑んでくれる。


「一姫ちゃん行きましょうか」


「はい。

それでは透くん行ってきますね」


「はいはい、行ってらっしゃい」


俺は軽く手を振ってリビングから出て行く二人を見送った。


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