第4話【事情聴取】

「ふぃ〜。

あれ?

何か綺麗になってる?」


シャワーを浴び終わりリビングに入るとその辺に放ったらかしになっていた服は畳まれており、教科書やプリントもいるものといらない物にわけられていた。


「うん、泊めてもらうんだからこのぐらいはね」


「ありがとう」


「どういたしまして」


「一条さんや。

ちーとこちらに座りなさいな」


そう言ってダイニングテーブルの椅子に座る。


「え?

どうして?」


「え、あ、うん。

いろいろ聞かなきゃ行けないこともあるからだよ」


「聞かないって選択肢は?」


「ない」


「はい」


彼女は自分の立場を理解しているからか大人しく席に着く。


「じゃあ、なんで家出したか話してくれる?」


「わかったわ。

まず、威圧的な態度をとったり無理やり家に泊めてもらおうとしてごめんなさい!」


彼女はそう言って勢い良く頭を下げる。


「うん、許すよ」


「ありがとう。

それで私、家出でじゃないの」


「は?」


この子は何を言ってるのだろうか?

子供が一人家に帰らないなんて家出以外の何ものでも無いだろうに。


「そもそも家がないの。

だから家出にはならないのよ」


少女は少し俯きながら話し始める。


「透くんも知ってるかもしれないけど私の家は自営業をしていて今までは結構裕福な暮らしをしてたの。

それがつい一ヶ月ほど前に急に経営が苦しくなってね。

裕福な家庭から一転、借金地獄よ。

ははっ。

本当に落ちる時は一瞬で落ちるんだね。

もう笑いしか出ないよ」


ボロボロと涙を流しながら無理やり乾いた笑い声を出す。


「それでね、一週間ぐらい前に学校から家に帰ったらね。

両親が寝室で首を吊ってたの。

理由は、経営が苦しくなって従業員達をリストラせざるを得なくなった時にいっぱい責められたらしくてね。

それに詳しくは知らないんだけどそれにどうにかお金を貸して貰えないかって知り合いや親戚なんかに頼りに行ってたらしいの。

その時、全然取り合って貰えないどころか酷いことを言われたらしくてね。

それらのストレスとかだと思う。

私の前では笑顔を作っていたけど目の下のクマが凄いことになっていたし毎晩、二人の泣き声が聞こえてきたもの」


「そうか」


自分でも情けないと思うがかけてあげられることばがみつからなかった。


「それでね、遺書には「不甲斐ない両親でごめん。この家と仕事場の土地を売れば借金が返済した後もお前が大学卒業までならどうにか出来る金額になるはずだ。それに信用の出来る弁護士にお前のことを頼んでいるから何かあったら相談しなさい。最後にお前を一人にしてしまうことになって本当に申し訳ないと思っている。でも俺達はお前のことを何よりも愛している。お前だけでも幸せになってくれ」って書いてあったの」


「ん?

ちょっと待てよ。

その遺書のことが本当ならなんでお前があんな所にいて、今俺の家にいるんだ?

大学になってた時ならまだしも今なら結構金あるんだろ?

ホテル取るぐらい出来るだろ」


「本当ならそうなんだけどね。

家と仕事場の土地を全部売っても私が高校卒業するまでギリギリどうにかなる程度にしかならなかったんだよ」


「まじか!

それっておかしくないか?

お前の両親だって適当な事言ったわけじゃないだろ?

そこまで差が出るのはおかしくないか?」


大学卒業出来るということは授業料が四年間で約400万、生活費や教科書などの必要なものを考えると大学時代にかかる費用は大体600万~700万ぐらいか?

それに高校卒業ギリギリってことはそれプラス200万と考えると800万~900万だぞ?

いくらなんでもこれだけの金額が下がるのはおかしいだろ。


「両親が自殺したのって私の家って言ったでしょ」


「あ」


その言葉で全てを悟った。

事故物件だ。


「うん、そういう事だよ。

本当に詰めが甘いよね」


そう言ってははっと乾いた笑い声をあげる。


「まあ、私のことはこんな所かな?

何か質問ある?」


「親戚とかには頼れないのか?」


「私の両親を見捨てた人達だよ?

そんな人に頼るぐらいなら死んだ方がマシ」


そう言いきった彼女の目には憎しみが見て取れた。


「そ、そうか。

じゃあ、今の親権って誰なんだ?」


「両親が遺書で書いていた信用出来る弁護士の人に頼んでる。

両親と結構仲良かったらしくてね、葬式とか借金返済の手続きとかいろいろとお世話になったよ」


「その人にお世話になるのは?」


「そんなの無理だよ。

その人も「家で引き取ろうか?」って言ってくれたけどその人にも家庭があるしそこまで迷惑をかけれないよ」


「そうか」

俺はそれ以上何も言えず少し下を向いた。




ぐうぅ〜〜〜



「え?」


聞こえた音の方を見ると彼女が顔を赤くし今度はさっきと違う意味で涙目になってお腹を抑えていた。


「ご、ごめんなさい」


「はははっ。

お腹空いたな。

晩御飯にでもするか」


そう言って俺はキッチンに向かう。

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