付き合ってるのにツンデレても意味なくないか?

「うわあああ……」

 よくよく考えてみれば容易に想像が出来た事態なのだが、駅前のパフェ店は藤見高校の生徒でいっぱいだった。別に超満員で入れないと言うほどではないのだが、あの中に入っていけば嫌でも知り合いに見つかるだろう。俺たちはどちらからともなく顔を見合わせる。


「やっぱり今日はやめておくか……」

「先輩、一度宣言したアクションは取り消せませんよ?」

 心なしか内海の語気が強い。そんなにパフェが食いたかったのか?


「でも内海も隠してるんだろう?」

「はい。とはいえここは駅前。時間を潰すところならいくらでもあります」

「まああいつらも夕飯の時間になったら帰るだろう」

 その場合、俺たちが夕飯の時間にパフェを食うことになるのだが、内海はそれについては気にしていない様子だった。そんなにパフェが楽しみなのか。女子の考えることはよく分からない。


「で、どこ行く?」

「そうですね、私もそんなにこの辺で遊ぶ訳でもないので……とりあえず東口側はやばいので西口側に出ましょうか」

 東口側は高校があるため、藤見高の生徒がうじゃうじゃいる。当然駅の中はさらにいっぱいいるので、俺たちはあえて地下道を歩いて駅の向こう側に出ることにした。


「こちら側は来るの初めてですね」

 西口側はうってかわって何もなかった。正確には会社とかが入ったビルとかがあるのだが、学生が暇をつぶすような施設は見事に東側に集中している。

「俺たち、今度からは最寄り駅で遊ぼうぜ」

「そうですね」

 俺たちの家はここから数駅離れた駅の近くで、行きつけのカードショップもそっちの駅近くにある。しばらくの間、俺たちは何か暇を潰せそうなところがないかうろうろしていたが、急に内海がある方向を指さす。


「先輩、あちらにブックオンがあります」

「まじか」

 確かに内海が指さす方を見るとおなじみのブックオンの看板が見える。俺たちは別に本が好きな訳ではないが、最近のブックオンはトレーディングカードを取り扱っている店が多い。

 俺たちが今しているのは放課後デートというくくりに入るのかもしれないが、気が付くと俺たちはブックオンの中のカードゲームコーナーに吸い寄せられているのであった。


「ふう、思わず時間を忘れてしました……」

「全くだ。ていうか店空いてるのか?」

 ブックオンを出たころにはすでに日も暮れていた。原因はただ一つ。店内にデュエルスペースがあったせいである。カードを見る→カードを買う→デッキに入れる→デュエルをする、という流れるようなコンボを決めたせいであっという間に二時間ほどが経過していた。すでに十八時を回っているが大丈夫だろうか。


「先輩、急ぎますよ」

「お、おお」

 急ぐとは言うものの、やはり駅の中を抜けていくのは危険だ。部活後の生徒と鉢合わせる可能性がある。俺は内海より速く走ると、地下道の上に出る。辺りを確認するが藤見の生徒はいない。

「よし、大丈夫だ」

「はいです」


 こうして俺たちはようやく目的のパフェの店“トロピカル・スウィーツ”へ向かった。ポップな雰囲気の内装で、壁には人気メニューの手書きPOPなどが貼られている。言うまでもないが女性向けの雰囲気である。ちなみに閉店は二十時だった。

 すでに寄り道の時間は過ぎているからか、店内にいるのは仕事帰りのOLや若い女性ばかりであった。

「ご注文は何にしますか?」

 可愛い制服の店員がやってきてお冷を渡してくれる。内海は店員さんに向かってメニューを指さす。


「じゃあこの“あまおう苺のデラックスパフェ”で」

 うおっ。危うく俺は声を上げそうになる。何でパフェなのに千円もするんだよ。確かに大きめの器に、チョコ・バニラ・ストロベリーの三層のアイスがあり、さらに一番上にはこれでもかというほどの苺が乗っていてデラックス感はすごい。なるほど、これを奢らせるという一手を打つために俺を待ってくれたり、二時間時間を潰したりしていたのか。

 やるな、だが俺もむざむざ負ける訳にはいかない。


「先輩はどうします?」

 見るがいい、俺の一手を。

「カツカレー大盛りで」

 ずこーっという音が聞こえたような気がするぐらい内海は衝撃を受けていた。それでも店員さんがいる間は何とかこらえていたが、立ち去るなり口を開く。

「それはただの夕飯じゃないですか!」

「そうだよ、今何時だと思ってんだよ」

 時計を見ると十八時半を回っている。普通に夕飯の時間だ。

「~っ! ど、どこの世界に、かかかか、彼女とパフェのお店に来て普通の夕飯食べる彼氏がいるんですかっ!」

 内海は自分で彼女と言いながら真っ赤になっている。可愛い。

「照れるぐらいなら自分で言うのはやめた方がいいぞ」

「全く、ありえないです。ムードも何もあったものじゃありません」


 その後すぐにパフェとカレーが運ばれてきたが、確かにムード的なものは何もない。内海はぷんぷんしながらフォークでイチゴを一つ突き刺す。そしておもむろに俺に突き出す。

「はい」

「?」

「か、勘違いしないでくださいね? ただ私がパフェ食べてる前で普通にカレー食べていられるとムードがないから分けてあげてるだけなんですからねっ!」

「いや、ツンデレっぽい台詞を言ってるところ悪いが、お前が俺のことを好きなのは勘違いじゃな……もぐ」

 俺は最後まで言い終えることなく口を塞がれたのだった。さすがにあまおうだけあってそのイチゴはすごい甘かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る