可愛くて俺のことが好きだけど策士な後輩に嵌められて付き合うことになった件

今川幸乃

プロローグ

***

 夕食を終えた俺たちは展望台に到着する。昼間は混んでいたが、案外展望台は空いていた。眼下に広がる夜景はそんなに大層なものではなかったが、これを独占していると思うと少しテンションが上がる。


「……先輩」

「ん、何だ?」


 不意に内海が上目遣いで俺に呼びかける。何というか、いつもと違って少ししおらしい雰囲気だ。


「デートの練習もそろそろ終わりです。最後にもう一つだけやることがあると思いませんか?」

「……」


 内海の言葉に俺の心臓がどきん、と跳ね上がる。そう、何となくそんな気はしていた。デートの最後に微妙とはいえ夜景の見える場所まで来て「景色きれいだねー」と言って何もなく帰ることなどあると思うだろうか。いや、そんなことがあってたまるか。


 とはいえいざ告白するとなると練習と言えども緊張するな。よし、とりあえずまず落ち着いて台詞を考えよう。やはり好意は宣言しないといけないし、付き合って欲しいということも明らかにしないとな。とりあえず最低限その情報は入れよう。好きだ、付き合ってくれ。意外と悪くないのでは? よし、試しに声に出してみるか。


「好きだ、付き合ってくれ」


 俺の言葉に、内海の表情が変わる。少しの驚き、戸惑い、恥じらい、そして喜び。ていうか声に出てるじゃん! ああああああああ、何てことだ! などと心の中で呻いていると。


「分かりました、付き合いましょう」


「……は?」


 俺は本来ありうべからざる返答に耳を疑った。が、内海はなぜか満面の笑顔を浮かべている。これは……紛れもない勝者の笑みだ。

「これからよろしくお願いしますね、先輩」

「いや、よろしくお願いしますじゃないが。だってこれ練習だろ? 何で了承されてんの?」

「デートは練習と言いましたが、告白の練習をするとは一言も言ってませんが?」

 やられた。俺は愕然とする。だが、そんなことがあってたまるか! 俺は必死で抵抗する。

「待って、今のなし! 今のはあくまで練習だから!」


「やだなあ先輩、先輩はモンスターを召喚した後『神々の宣告』で無効にされたら『待って、今のなし!』て言うんですか? それはちょっと卑怯じゃないですか?」


 さて、なぜこうなってしまったのか。そもそも俺と内海はどういう関係だったのか。その辺りのことを説明するために、数日間時間を遡ろうと思う。

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