第14話

「はい」

「な・・何を根拠にそのようなことを・・・?大体、ベリア族って本当に実在するのですか?もしベリア族が実在するのなら、聖なる山と呼ばれているへメル山も、本当に実在する、ということ・・・?」


次々と浮かぶ疑問を思わず口にしてまったけれど、エイリークは辟易するどころか、穏やかな笑みを浮かべたままだ。


「落ち着いて、王妃様。僕が知っている範囲で、一つずつ答えていきましょう。まず、ベリア族は本当に実在しますよ。へメル山は、世界最北端にあるベルリという国に、ちゃんと実在します。ベルリは、周囲が氷に覆われ、常に雪か吹雪が舞う極寒の地。故にベルリには、寒さに耐え忍ぶことができるベリア族しか、住むことができないと言われています」

「まあ・・・幼い頃、へメル山やベリア族が出てくるおとぎ話を聞いたことはあるけれど・・本当に実在するなんて」

「そういう理由で、ベルリへ行く人は限られていますからね。僕もベルリへ行ったことは一度もありませんし。当然ながら、へメル山をこの目で実際に見たこともありません。へメル山は世界最北端の国・ベルリにある、世界最高峰の山です。その高さは8888メートル。常に雪に覆われたへメル山は、天空に一番近い場所と言われ、そこから別名“聖なる山”とも呼ばれているんですよ」


とても分かりやすく説明してくれるエイリークを、私は感嘆の眼差しで見ながら頷いた。


「ベリア族は皆、雪のように白い肌で、プラチナブロンドの髪を持ち、そして碧い色の瞳をしています。この組み合わせはベリア族特有のものであり、言い換えれば、他の種族にはない組み合わせで・・・これでよし、と。では王妃様、行きましょうか」

「はい?どこへ」

「この作業が終わり次第、王妃様を執務室へお連れするようにと、ライオネルから言われておりまして」

「あ・・そうですか」


それでライオネル王は、「また後で」と言ったのか。


ライオネル王は、この髪を見てどう思うだろうか。

私の地毛がプラチナブロンドだと知った段階で、王はすでに私がベリア族だと気づいていたはず。

だから、同族であるエイリークを私に会わせたのだろう。

「話が弾む」と見越して。


エイリークはとても優しく、聡明で、ライオネル王より何倍も気さくな感じがするから、確かに話はしやすいし、会話も弾んでいる方だと思う・・・。


私たちの靴音が、廊下にコツコツ鳴り響く中、「どうしました?王妃様」とエイリークに聞かれた。


「あっ、あのぅ・・・ライオネル王から聞いたのですが。一体どうやって、私と・・その、婚姻を・・・・・・?だって私は、王とは結婚をするまで一度も会ったことがないし。もちろん、あなたにも。あなたもさっき、“やっとお目にかかれて”と言ったでしょ?」


今はエイリークと二人だけなので、今がちょうど良い機会だと思った私は、思いきってエイリークに、ライオネル王から聞いてずっと気になっていたことを聞いてみた。


「あぁ、その事ですか」

「ライオネル様からは、あなたに聞けと言われました」

「そうですか。別に隠すことじゃあないし。では、ちょっと話を遡らせて。ライオネルと僕は同い年で、幼少の頃から友として、共に遊び、共に学んだ間柄で・・」

「えっ?!ということは、エイリークって・・王と同じ30歳なの?!」


素直に驚く私を見たエイリークは、クスクス笑いながら、「その反応、よくされる」と言った。


「僕はいっつも実年齢より若く見られるんだよねぇ。王妃様より年下だと思いましたか?」

「いえいえ!ちょっと・・・ライオネル様と同い年、と言う事に驚いて。でも、お二人とも実年齢以上に威厳がありますから。結局同い年と聞いて納得と言うか、お似合いと言うか・・・」


自分でも何を言っているのか分からない状態になってしまいつつ、「エイリークは幼少の頃のライオネル王の事も知っているんだ」と、頭の片隅で思っている自分がいた。


「そうですか。ありがとうございます。それでどこまで話したんだっけ・・・あぁそうだ。ライオネルとは幼馴染で、それで僕は、バーバラ様やレオナルド様からも可愛がってもらっていたんです。それもあって、10年前にバーバラ様がお亡くなりになった時、ライオネルと僕は、メディカルアカデミーを立ち上げたんですよ」

「そうでしたか・・」

「僕たちは、アカデミーを軌道に乗せることを人生の最優先事項とし、日々忙しく奔走していました。ニメットさんや周囲の人たちは、ライオネルが婚姻相手を見つけようとしない事を嘆いていたけど、レオナルド様は、結果的に国民を救う事になるのであれば、全身全霊、己の全てを、そこに注ぐべきだと応援してくださった。おかげでアカデミーがやっと軌道に乗り出したと実感したその矢先、今度はレオナルド様が流行病でお亡くなりになって・・・」


エイリークは、悲し気な顔を上向けると、ハァとため息をついた。


「それを機に、アカデミーで医療技術も教えることになったんですけどね。しかしライオネルは王位を継承することになったので、アカデミーの運営は僕が一任して、ライオネルは国務の傍ら、時間があればアカデミーに顔を出す、という生活に変わって。ま、どちらにしても、多忙な日々を送っていることに変わりはないんですが。一月ひとつきほど前だったか、“そろそろ花嫁を探したい”とライオネルから言われて」

「そ、それで?!」


いよいよ話の核心に近づいた・・・!

早く先が知りたいと気が急く私は、思わず我が身をエイリークの方へ寄せた。


「占術で花嫁を見つけたんです」

「・・・・・・は?占術?」

「アカデミーを運営する前まで、僕は占術師をしていました。占術をするのは久しぶりだったんですが・・・お恥ずかしい話、僕たちがラワーレという国の存在を知ったのは、実はその時が初めてで」

「え」

「だからライオネルは最初、“これは何かの間違いだ、ラワーレという国にプリンセスがいるわけがない、もしいたら喜んで結婚してやる!”と息巻いていたんですが・・・調べたら、御一人いるじゃないですか」

「な・・・」


そんな理由で、私は偽者の姫として、ライオネル王と結婚することになり・・・。

しかも、自分やフィリップたちの命までかける事になってしまったの?!

私・・・とんでもないことに巻き込まれている気がする・・・。


「きっかけは単純ですが、ブランクがあっても僕の占術は、毎回ほぼ100パーセントの確率で当たりますから。これでも腕は確かなんですよ」

「いやぁ。そういう問題では・・・」

「それに、ライオネルも最初は半信半疑どころかかなり疑ってたけど、どうやら貴女様のことをとても気に入っているようで。お二人の相性も、占術通り最高に合っているようだし。僕も安心しました」

「私はそうは思わないけど」

「あの“クマ王子”が結婚したとは・・・。僕もそろそろ相手を見つけて落ち着きたくなって・・・」

「ちょ、ちょっと待って」

「はい?何か」

「クマ王子、って・・・誰ですか」

「ライオネルの事だよ。あいつ、幼い頃から大柄な体躯をしていて。それでクマみたいと思った僕が、ある日“クマ王子”というニックネームをつけてやったんだ。以来、クラスメイトからは“クマ王子”と呼ばれるようになったんだけど、それが時と共に“マ王”と省略されて」

「え・・・ええっ?!」

「今でもライオネルのことを“魔王”と呼ぶ者たちはいるけど、実はちょっと字が違うし。勘違いしてるみたいだね。ま、でもそこはあえて訂正せずに、ライオネルは呼ばせてるみたいだけど。あいつから聞いてない?」

「聞いてないっ!」

「あ、そう。まぁでも、そのうち色々分かるから」


・・・「クマ王子」の略で「マ王」。

つまり、「魔王」じゃなかった!

なんかもう・・・憤慨する以上に笑える話だ。

後でサーシャにも教えよう・・・。

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