断 片

 終わりのない悲しみはどこからやってくるのか。

 打ち捨てられた猫のようだ。

 こんな気持ちになるのなら、もう誰とも関わりたくない。

 希望なんて持ちたくない。

 もうきみがいないという現実に連れ戻されるくらいなら、

 夢を見ているということに気づきたくない。


 音楽がかろうじて自我をつなぎとめる。

 誰にも気づいてもらえない。

 ぼくだけが夢の世界の住人ではない。

「おはよう。おはよう。おはよう」

 ぼくは壊れたラジオみたいに、そう何度もつぶやく。

「おはよう。おはよう。おはよう」

 答えるものはない。なんだか、

 孤独なおじさんのツイッターみたいじゃないか?

「おはよう。おはよう」

 返事はない。ぼくはついにつぶやくのをやめた。


 身体が鉛のように重い。

 手足の末端から凍り始めていた。

 ぼくは絵の中に閉じ込められた。

 遠くで教会の鐘が鳴っている。

『無秩序は、悪魔のすみか。形なきもののすみか。

 秩序は、神のつくりしもの。形あるもののさだめ』

 ゴトゴトと歯車が鳴る。

 そして、世界は再び動き始める。


 ぼくはそのドアを開いた。

 どのドアを?

 そのドアをである。

 とにかくぼくはそのドアを開いた。

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