とある奇談蒐集家の手稿

喜村嬉享

第一話 彼岸花



 秋の彼岸の頃に咲く彼岸花──別名・曼殊沙華とも言われるそれが道端に咲くのは、飢えに苦しんだ先人達が非常食として後世の為に残してくれたからだという。


 これを蔑ろにした者は何らかの形で飢えに苦しむ……などという教訓染みた話が、とある地方では囁かれていた。



 しかし、それは迷信ではないのかもしれない──。




 素行の悪い少年Aは、街が大切にしていた川沿いの彼岸花を踏み荒らし補導された。それは只の鬱憤晴らし……少年は反省の色もないまま親元へと帰された。



 それから一年後……人々の記憶から忘れられていた少年Aは、突如行方知れずになった。初めは家出を疑がわれたが、二週間が過ぎた頃……少年Aは遺体で見付かる。


 山際の廃屋……その敷地内の枯れた井戸から発見された少年。検死解剖の結果死因は餓死と確認。足を骨折し這い上がることが出来なかった挙げ句、誰も近寄らない廃屋の敷地内である為に助けを呼んでも聞こえなかったのが死の原因だった。


 皮肉にも、遺体が発見された井戸の周りには彼岸花が一面に咲き乱れていたという………。




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