第7話 暴走

 戦闘を離脱した皇帝は一人、考えていた。

 あの小娘、何者だ?今まで俺の力が通用しなかったやつはいなかった。あれは防がれた、と言う感じではなかった。ならば、何だ?何をした?分からん。が、実に楽しめそうだ。次会う時はその力、本物にしておけよ。俺を失望させるようならば、一瞬でその命、絶たれると思えよ。

 今まで、皇帝に匹敵するものはいなかった。故に、初めて自らと対等に戦える可能性を秘めた存在が現れたことを喜んだ。そして初めて、自らの力をただ振るうのではなく、新たな使い方を考えるようになった。

 『傲慢』の家に生まれ、実際にそれに見合う実力も伴っていた皇帝。歴代の七人の罪業を支配する悪魔の家系、その中でも最強とも言える能力、圧政プレッシャー。その強大な力だけでもあらゆる敵を蹂躙することが可能であった。しかし、初めて通用しない相手が現れた事により、最強とも思える能力が更に進化を遂げるきっかけとなってしまった。



 皇帝が離脱した後、女は当初の目的地である、自らの自宅へと少女を招き入れた。

 少女にとって普通の一日になるはずだったのが、突然様々な出来事が起こって重要なことを失念していた。故に、こうして落ち着いた瞬間にその事を思い出した。

「あの、私、学校に行かないと。もう、遅刻は確定なんだけど……」

「それは大丈夫。既に手は打ってあるから」

 どう言うことかは分からなかったけれど、せめて友達には連絡を取ろうとスマホを取り出すと、何人かから連絡が来ていた。

『風邪引いたんだって?大丈夫?』

『帰り、お見舞いに行こっか?』

『何か欲しいものある?』

 等々。全てが少女を心配する内容だった。それらを見て安心すると共に、目の前の女を恐ろしくも思えた。初めて会う、名前も何も知らないはずなのに、相手は自分の事を知っている、そんな感覚故の恐怖を。

「どう、して……?」

「ほら、学校をズル休みとかさせるのは申し訳ないでしょ?」

「そう、じゃなくて、どうして知ってるの……?」

「遠くから、本当に遠くで、助けにはすぐには行けないところからご子息様の最期の戦いを観測している者がいたの。それで、貴女が力を受け継いだ事、暴発させた事を知って、調べさせてもらったの。ごめんね」

 疑問を口にする少女に女は全てを告白した。

 少女はそれに何故か危機感を覚えた。自分には調べられて困るような事は何一つないはずである。しかし、身体の奥底から沸き上がる危機感は際限なく膨れ上がっていった。そして、それに導かれるように少女は一言、口にした。

凍結フリーズ

 その瞬間、女の身体は頭部を残して一瞬にして凍り付いた。

「……ごめんなさい。貴女が怒るのも仕方ないわよね。でも、私達の力を悪用されるわけにはいかなかったの。でも、安心して。私達は貴女に……」

 そこまで話して女は強制的に口を閉ざさせられた。少女によって頭部まで全てを凍り付かせてしまっていた。

 女は凍り付いた状態でも冷静だった。そして、この後の自らの行動を考えていた。この氷を消すことは女にとっては容易である。しかし、今それを行う事が最良の選択であるのかは分からなかった。故に、放置、静観。少女の次の行動を待っていた。

 少女は自分でも何故この様な行動を取ってしまったのかは理解できなかった。ただ、こうしなければ危ない、と言う強迫観念の様なものに導かれるままに力を使っていた。故に困惑し、身動きが取れなくなっていた。

 二人ともが何もしないまま、一枚の絵画の様に静止した状態で数分が流れた。そして、先に行動に出たのは女だった。

 さすがにこのままだと私も危ない、か。つい、衝動的にやっただけで、これは望んではいなかった、そう信じるしかないかな。

 その様に結論付けた。

「Gen chik ko tok mus」

 凍って動かないはずの口。それでも女ははっきりと言った。すると、女の身体の氷は全て解け、霧散した。

 少女はそれを見て、目の前の女には敵わない、そうでは考えていた。しかし、内から沸いてくる危機感は更に強まるばかりで、故に、より強大な力を発動させた。

「……氷の世界アイスエイジ

 その力は女だけではなく、部屋全体を一瞬にして凍り付かせた。更に、少女は動けない女へ向かって攻撃を仕掛けた。

充電パワーチャージ……解放リリース!」

 それは、少女が力を受け継いだ時に初めて使ったもの。手の平から高速で放たれるのは鋭い氷の刃。人体など容易に貫通するそれが至近距離から放たれた。

 例え、凍っていなくとも、この距離であれば回避は不可能。確実に氷の刃は女の身体を貫通し、死に至らしめる。少女はそれを理解していた。理解していてもなお、理由も分からぬ恐怖から逃げるために自らの意思で放った。

 今までは自分の意思とは関係なく、力の暴走等により人を殺めていた。しかし、今回は間違いなく自分の意思であった。止めようと思えば止めることは出来たのだから。

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