世界を呪った私の異世界との付き合い方~あなたは誰を呪いますか?~

遣都

第1話 呪縛

 あなたは誰かを呪ったことはありますか?





「今日は給料もらえる日だろ、出しな」


 床に蹴り転がされた私を見下ろしながら、金をせびるその目を無感情で見返しながら、懐から今日バイトで得た給料袋を取り出して渡す。


 奪い取るように給料袋を取り、中身の金額を確認しながら、舌打ちをする。


「これだけかよ、しけてるな」


 札束を取り出して、小銭だけ入った状態で給料袋を投げ返される。


「今度こそ一発当ててやるぜ」


 奪った札束を乱暴に上着のポケットに押し込み、私とすれ違うように外へ出て行く。


 私は次のバイトへ行く準備をするため、自分にあてがわれた部屋へ入る。


 そこには6畳ほどの和室に、ゴミの日に捨てられていたちゃぶ台のような机と、畳の上に置かれた小物。押し入れの中には今朝起きた時に閉まった布団と、数着の服が収納されている。机の上にはこれも拾ってきた鏡で端が欠けているが重宝している。


 髪を切りに行くお金もないので、自分で切るためには必要なものだ。不自然にならないように切っているが、前髪が平行に切られ目にかかりそうになっているから、暇を見つけて切らないと。


 乱れた服装を整え、バイトの準備をした後、そのまま部屋を出て鍵を閉める。深夜のバイトの方が給料がいいので、帰ってくるのは朝方になる。


 空を見上げると今年最初の初雪がチラチラと舞うのを見ながら、無感情な瞳が一瞬だけ感情を表す。



 ”こんな世界など呪われてしまえ”





 私の生まれはよくわかっていない。記憶がある1番最初は2歳頃で、お腹を空かせて泣いた時に口を塞がれて息苦しさと、真近な死を体験したことだ。


 3歳になると周りの状況を理解したが、どうやら捨て子だったらしく、ある新興宗教団体に拾われたようであることがわかった。


 その新興宗教団体は表向きは捨て子の救済を謳っているが、中身は屑に等しく、階位が設けられ、寄付額が多ければ多いほど階位が上がる。


 階位が上がると、捨て子が支給され、それを養子と戸籍上取るが、中身はただの奴隷だ。


 子供の頃に言い訳する気力をへし折り、無感情なロボットに仕立て上げた後、新興宗教団体の団員が経営する店で働かせ、その給料を養子にした団員が受け取る仕組みが出来ている。


 団員はその給料から寄付を納め、階位を上げるか維持しなければ、階位が下がってしまう。階位が無くなれば養子縁組を切られるので、維持分だけは寄付する仕組みだ。


 階位が高ければ高いほど、社会的地位も高く、奴隷も多いため、益々金が転がり込んでくる仕組みで、奴隷が大人になって逃げだそうにも、社会的に潰されることが多いか、またはどこかでひっそりと消える。


 そんな奴隷みたいな地位にいるのが、今の私だ。この新興宗教の仕組みを調べるために私を養子にした戸籍上父親を、バイトでもらったと偽った酒で泥酔させて聞いた話だ。


 この奴隷から抜け出すために、色々調べたがいい結果は得られなかった。この新興宗教団体の団員は結構幅広く、議員、警官、病院、放送、出版など様々なとこにいるらしく、どこかで都合が悪いことがあると、握りつぶされる。


 私の戸籍上父親は自分で働かず金をせびるやつだが、議員や警官、医者など金のあるやつは養子にした子供を働かせる必要はない。


 養子にした子供を、自宅でおもちゃの様にストレス発散に使うものや、性奴隷の様に使うものなど、社会的ルールに無理なことが通るため、団員の結束力が強いようで、団員になったもののリークはかなり少ない。リークするために新興宗教団体に加入したものもいるだろうが、8割は取り込まれ、2割は社会的に消えるような状況らしい。


 なので大半の奴隷はある程度生きると精神が壊れるか、耐え切れず自殺する。必要なくなった奴隷は自殺として全て、新興宗教団体の息がかかった者たちで処理される。


 そんな世界で今の私は生きている。





 初雪がしんしんと降る中、今日も新興宗教団体に所属している人の経営しているバイト先へ向かう。奴隷は働く先を自分で決めれないので、必然と自宅との通勤が可能な区域になる。


 バイト先は深夜営業している飲食店だ。衣装はセクシーな服を着て、客席に付き接待を行う飲食店。表向きは。裏では新興宗教に所属している団員限定で、店で働いている子を指名して隣接したホテルへ地下道を通り、連れ込める仕組みになっている。


 働いている子も誰かの養子なのだが、養子にした団員が許可をすれば、裏の仕事も出来るが、許可が無い場合は表向きの仕事だけだ。もちろん裏の仕事の方が許可した団員の懐に入る金は段違いになる。


 私は年齢の割に体の成長が著しく遅く、見た目は小学生のため、表の仕事も出来ないので裏方に回っている。もし表の仕事も出来る容姿なら、戸籍上父親なら即裏の仕事も許可を出すだろうが。





 そんなバイト先へ向かう道すがら、コンビニの前に差し掛かると、悲鳴が聞こえた。


 悲鳴のしたコンビニの店内では、刃物を持った男がコンビニ店員の女性に刃物を突き付けながら、何かを叫んでいる。状況からして強盗だろう。


 ぼんやりとその状況を眺めながら、強盗するならこんなとこじゃなく、宗教団体の店にしたらいいのに、などと考えていた。


 するとこの辺りは風俗営業店もあり、治安があまり良くないので、たまたま警邏していたのであろう、警官2人が悲鳴を聞き、こちらに走ってくるのが見える。


 強盗はレジから金を取った後、コンビニを出ると、こちらに走ってくる警官に気づき慌てていると、私と目が合った。


 強盗は私を抱き上げ、刃物を突き付けるのを警官に見せる。


「来るなっ!こいつがどうなってもいいのか!」

「やめろ!罪が重くなるぞ!」

「うるさいっ!近づくなっ!刺すぞ!」


 見た目小学生のせいで、裏営業をしないで済んでいたが、こういう時は足が地に着かず何もできないな。などとぼんやりと考える。頭の上で大声を出さないでほしい、単純に五月蝿い。


 強盗は私を抱えたまま、警官から距離を取るように、下がる。警官も私がいるせいで何もできないのか、刺激しないようにただ見守るだけだ。


「いいか、そこから動くなよ!動いたらこいつを刺すからな!」

「わかった、言う通りにする。だからその子供を離せ」

「いいから言う通りにしろ!」


 後ろ向きのまま強盗は私を抱えて、距離を取る。もうすぐ違う道へ逃げ込めるというところで、後ろから車のクラクションが聞こえた。


 ブレーキ音がけたたましくなる方を強盗が振り返ったので見ると、車が初雪で滑ってこちらに突っ込んでくるのが見える。


 その瞬間、走馬灯の様に過去の自分を振り返るが、生まれた時から奴隷の様な生活を送ってきた私にとって、走馬灯がただただ苦痛だった。


 時間がゆっくりと進んでいるように感じる中、車のライトを見ながら私は思う。


 ”やっと解放される”


 そして強盗と車に押しつぶされながら、痛みとともに私は願う。




 ”こんな世界など呪われてしまえ”





 そして私はこの世界から解放された。

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