第9話:ドイツ人は外の空気が吸いたいから…

入院して数日が経った。

毎朝パン、ハムとフルーツを食べて

薬を飲んで

タバコを吸って

病室でノートパソコンで日記を書きつつ、ゲームをして

昼ご飯を食べて

ゲームして

晩御飯を食べて

ゲームして

薬を飲んで

寝る


どう見ても廃人生活でした。

当時の僕はこの生活が気に言ってました。

誰にも邪魔されないし、自分の世界に入れるから。

と言っても、時間を潰す方法が、寝るかゲームの二択だったの、

必然的にゲーム時間が増えましたね。

元々FPSプレイヤーで、ゲーム大好きっ子だったのでプレイ自体は

苦では無かったです。


そんな平和な病院生活でしたが、やっぱりイベントは発生します。

その男は、タバコ臭い!!と言って毎回怒ってる人でした。

彼の名は・・・嫌煙家としましょう。

喫煙者の僕は特に関わる事は無かったですが、看護師さんに詰め寄ってる

所を何度か見ました。

ヘイト値たっけーな…って当時の僕は思ってました。


そんなある日の昼頃、僕は病室でゲームをしていると、

ドーン、ドーン、ドーン、あばばばば(ドイツ語でなんか言ってる)

と言う重たい音と怒鳴り声が聞こえた。

珍しく騒がしい。

そう思った僕は、ベッドから出て、スリッパを履き、

病室から出て廊下を見ると…


嫌煙家がテーブルを持って、窓ガラスに叩きつけていた。

まるで除夜の鐘を鳴らすみたいにどーんどーんと。

彼は自分を失ったかの様に、一心不乱にテーブルを窓ガラスに叩きつけていた。

それを見た僕はあー…これが非日常って奴かなんて思いながら見てました。

錯乱状態かな?これって注射で無力化されるのかな??とちょっと期待した自分。


本来なら止めるべきなんですけど、怪我したら余計面倒だなぁと考え、

看護師さん待ち。やってる事は野次馬って奴ですね。

その音を聞きつけた数名の看護師は嫌煙家へ駆け寄り、大声で彼に何か言った。

多分だが、大体こういうシーンだと

「動くな、止まれ!!これ以上罪を重ねるな」

みたいな事言ってるんだろうなーって脳内補完していた。

嫌煙家は看護師さんを無視してテーブルを窓に叩きつけていた。


看護師さん達の顔色が変わった。『よろしい、ならば戦争だ』みたいな。

あー…これは…圧倒的な武力で潰すんやろなー…なんて思った途端

数名の看護師は彼に近づき、一瞬で羽交い絞めし無力化。

嫌煙家は暴れるが、熊みたいにデカい人に羽交い絞めされたら動けないよね。

手慣れている…やっぱドイツ人はドワーフだわ、強い…


嫌煙家はそのまま部屋へ監禁となり、数日間部屋での生活を強いられました。

落ち着いたか、彼は特に問題を起こさず部屋で静かに過ごしていた模様。


幸い、フィルムが張られていた事と、二重のガラスで、割れてはいましたが、

破片は出ませんでした。

しかし、その後テーブルは全て固定され、動かせなくなりました。


この日の晩、僕は看護師のマイクさんに、今日起きた事について聞いてみた。

マイクはため息をつきながら説明してくれた。

「本来なら言ってはならないのだが…」

「彼はタバコの匂いに耐えられず、外の空気を吸う為に窓ガラスを破壊しようとしたんだ」

(えぇ…自室に籠ればええやん…馬鹿なのか?)と僕は心の中で思っていた。

「その結果、彼は病室で軟禁、幸い落ち着いたので拘束具は付けなかったが」

眼鏡をクイっと上げながら

「俺は怒っている」

あれ、珍しい。感情的だな。と思いつつ

「何故です?」と聞いた

マイクは怒り混じりの苦笑をしながら

「今日中に始末書書かないとならないからどうしよう…」

「帰れない…嫁と子供に会えない…」

「あー…それは辛い」

「子供が出来たばかりなんだよー、早く帰りたいんだよー」

といつになく愚痴を言っていた。

取り合えず僕は落ち着いてもらう様にこんな事を聞いた

「マイクさんは愛妻家でしたよね」

マイクは遠い目をしつつ答えてくれた

「そうだよ、僕は嫁と子供を愛してる」

「だが…家に帰るのが遅れると嫁さんから凄く怒られるんだ…」

ドイツ人女性はやっぱり強いんだなと察した。


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僕が見た隔離病棟で空気の為に窓ガラスを割った男の話でした。

目の前で予想外な事が起きると、戸惑うのが普通なのですが、

薬を飲んでるからなのか、至って冷静な目線で物事を見てましたね。

祭りだわっしょい!!みたいな感じで野次馬がわらわら来て

野次馬精神は万国共通と思ってたり。

この後、喫煙室に大型の機械が導入され、タバコの匂い漏れは減った模様。


この話は嫁さんにこの事が起きた事を説明した時の話だ

嫁:「そんな事で窓ガラス破壊しようとするなんて…」

僕;「凄いよねー、非日常だったよ」

嫁:「そうね…でだ…何故、貴方は危険な所へ?」

僕:「はい?」

嫁:「錯乱してる人が窓破壊しようとしてる訳じゃない」

  「つまり、その人が危害を加える可能性が有った訳じゃない?」

僕:「アー…ソウデスネー」

嫁:「そうだよね、理解したよね?つまり、危険に近づいたという事よ」

  「ちょっと、その辺の意識の持ち方について話をしようじゃないか」

僕:「あ、僕、運命と言う名の用事があるんで、部屋に帰りますねー」

嫁:「逃がさんヨ?(にっこり)」

この後、滅茶苦茶説教されました。

怒ってる嫁さんは怖い。あれは…そう、バーサーカーや。

論破して何も言わせない。恐ろしい。

怒ってる時は負け戦確定なので、もう白旗を直ぐ上げる事を覚えました。


みなさんもパートナーの地雷を踏まない様に気を付けよう…

それでは、良い一日を


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