第20話 宿泊1


 「上がったよ~。・・・・って、どうしたの?」


 美咲が温泉から戻ると、乙葉が座椅子で上を向いていた。


 (寝てるのかな・・・・?)


 「・・・・ん、」


 (起こさないようにしなきゃね・・・)


 美咲はゆっくりともう一つの椅子に座り、乙葉を眺める。


 (・・・あれ、今って同い年の男女が一つ屋根の下にいるってことにならない⁉)


 「ど、どどどどうしよう! てか、今更意識し始めてどうするんだ、私~~」


 美咲が小声で頭を抱えている間、乙葉の意識は別のところを浮遊していた。


 (まったく、建物の構造把握だけは俺が直接やらなきゃいけないとは・・・)


 «仕方なかろう。旅館内を鴉が飛んでいたら、つかまえられて食べられてしまう»


 (・・・いったい何時代のことを言ってるんだ。日本にそんな風習はない)


 乙葉は自分の意識を飛ばして、建物の構造把握を行っていた。一種の幽体離脱だ。なので今、美咲が帰ってきたことも彼は知らない。一応、鴉が幽体離脱中の乙葉の肉体の監視を任せてあるので、問題があれば対処してくれることになっている。


 (一般的な旅館だな。だが魔よけのお札がいたるところに貼られてる。流石、陰陽師ご用達だな)


 一通り把握してから、乙葉は自分の部屋に戻り始めた。


 «なあ、»


 (?、どうした?)


 鴉が言いにくそうに話し出した。


 «・・・もう少し、館内を回らんか?»


 (はあ? 何言ってるんだ。構造把握はできたし、幽体離脱だってリスクはあるんだ。さっさと戻るぞ)


 «あ、ちょっ、待っ、»


 鴉の静止を振り切って部屋の扉をすり抜けると、美咲が乙葉の顔を至近距離から見つめていた。


 «だから、言ったじゃろう・・・・»


 --------------------------


 (ど、どうしよう~~~~。・・・ちゃんと寝れるかな~)


 美咲は顔を赤らめながら、乙葉の寝顔を眺める。


 「・・・いつも指導してもらってるときは気付かなかったけど、寝顔は結構かわいいんだ・・・・・」


 美咲と乙葉の距離が少しずつ狭まり、美咲の吐息で乙葉の前髪が揺れた。


 「っ! わ、わたしはなにを・・・」


 何かまずい状態なのは理解しているが、乙葉の顔から目が離せなかった。


 (かわいいな~。も、もう少し近づいてもいいよ、ね?)


 パチ


 「え?、」


 「・・・おはよう、美咲」


 唐突に目を開いた乙葉と美咲は至近距離で見つめ合う形になった。もともと赤らんでいた美咲の顔がみるみる真っ赤になった。

 

 「あ、あわわあわ、えっと、これは、その、えっと!」


 「・・・まずは少し離れてくれないか?」


 ※次回更新 4月15日 水曜日 0:00

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