第3話 戦闘2


 乙葉はポケットから片耳のヘッドホンマイクを取り出し、耳にはめる。あらかじめスマホと接続してあるのでいつでも通話可能だ。


 「じゃあ、頼む」


 «ああ、わかった»


 コートがざわりとはためき、周りの人や物の動きが止まる。正確には乙葉が現世を離れたのだ。今乙葉がいるのは通称妖世。霊が存在している世界だ。


 乙葉はその場で飛び上がり、高層ビルの壁を蹴りながら屋上まで上がった。


 「ん~、あれかな?」


 屋上から見ると橋の近くで悪霊がうめいている。鎧姿の女が槍を振るっ

ているみたいだ。


 「確かにあの霊装はないな」


 «であろう? あんなに霊力を注いでしまってはすぐに術が切れてしまう»


 「ま、防御しとかないと不安なんだろう」


 そんなことを話しているとヘッドホンに着信が入る。ちなみに妖世は現世上に存在するので、電波は通っている。


 「はい、はい」


 「あ、あなた分家の人?、きゃっ!」


 ドオン

 

 電話越しにも爆音が聞こえてくる。


 (あ~、橋が崩れていく・・・)


 「・・・お手伝いしましょうか?」


 「ええ、お願い」


 (あの程度1人で処理して欲しいところだが)


 「すぐに行きますよ」


 乙葉は屋上から飛び降りる。空中でコートから黒い翼が生え、羽ばたきながら低空飛行を始める。一瞬でくずれた橋まで飛ぶと、鎧姿の女は悪霊から距離をとっていた。


 (好都合だな)


 乙葉は着地するとともに刀の柄に手をかける。その時、彼女から膨大な霊力がほとばしり始めた。


 「【私は常世すべての悪を祓う】」


 「嘘だろ、ここでそれを!?」


 乙葉は柄から手を離し、女のところに走る。コンクリートの舗装を壊し、距離をつめ、槍を蹴り飛ばす。


 「なっ!? 何するんですか!」


 「バカか、お前は!! こんなところで奥義を使うな!」


 その女は心底心外とでも言いたげな顔をしている。


 「で、でもこんな強敵になら、」


 「強敵!? ふざけてるのか、お前は」


 「ぶ、分家のくせにえらそうな・・・」


 「・・・お前はそこでうずくまってろ」


 乙葉はそう冷たく言い放つと、振り返りざまに悪霊との距離をつめ、裏拳で粉砕する。


 パアン!

 

 風船が割れたような音がして、悪霊は虚空に吸い込まれていった。


 「な、なんで・・・・・・」


 乙葉の後ろでは霊装が解けた女子高生が膝から崩れ落ちていた。乙葉は彼女に近づき、跪いて視線の高さを合わせる。


 「わかったかい?、篠宮さん」


 「え?、あ、あなた鴉宮くん!?」


 「こんにちは。そしてはじめまして、本家のお嬢さん」


 ※次回更新 2月15日 土曜 0:00








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る