国王陛下

「国王陛下、ガゼル・レイヴァルドを連れて参りました」


 オレとリルルは王の間にひざまづいていた。

 陛下の傍には魔法騎士が控えていて、いずれも手練れであることがわかる。


「よく来てくれた、ガゼル・レイヴァルド。今日はそなたに礼を言おうと思いここに呼んだのだ」


なるほど、そういうことか。

 礼とはおそらくこの前のグリムによる国王陛下暗殺のことだろう。

 いち早く敵の狙いに気づいたオレは敵を誘い出すために陛下の影武者をしたのだ。


「いえ、礼にはおよびません。あれは、私などの得体の知れない者の情報を信じてくださった国王陛下の御心の広さがあってこそのことです」


 オレはセレスに殺された後、敵をゴーレムで襲撃して焦らせると同時に、国王陛下に接触し事件のことを伝えた。

 その甲斐あって陛下は無傷で済んでいる。


「いや、そなたには本当に助かったのだ。礼を言わせてくれ。ありがとう」


「勿体ないお言葉です」


 国王陛下の前でのガゼルは普段のだらしなさからは想像できないほど礼儀正しかった。


 無難に済ませるのが最善の方法だと思ったからだ。


「用件は以上だ。退がってよいぞ」


 オレとリルルは王の間を後にした。





「話は聞いてたけど凄かったんだってねガゼルくん。国王陛下暗殺を未然に防ぐなんて。そのお礼だったんだね。なんだか拍子抜けしちゃった」


 廊下を歩きながら二人は話をしていた。

 王の間に向かう時は、なんだかんだ言いつつ緊張していた様子のリルルだったが、終わってみると杞憂だったと安心していた。


「だから言ったでしょ。オレは何も悪いことはしてないって。むしろいい事をしてお礼言われたし」


「そうみたいだね。でも、なんで自分から面倒ごとに飛び込んだの?傍観者でいたいって言ってなかった?」


「あそこまで巻き込まれて知らん顔をしたら、なんか目覚めが悪いような気がしたんですよ」


「ふ〜ん。そんなものかなぁ?」


 リルルは上目遣いでこちらを見てくる。


「そんなものです」


「じゃあ、私の仕事も手伝ってくれたりしない?」


「すみませんけど、お断りします」


 キッパリと断っておいた。軍の仕事を手伝うなんて冗談ではなかった。


「じゃあこれは私の独り言ね。近頃、吸血鬼の国、バーハラムー帝国が勢力を拡大してきているのよ。もしかしたら戦争が起こるかもしれないから気をつけてね」


 バーハラムー帝国とはオレが今いるここ、クライスト王国の東に位置する国で、その国は人口のほとんどが吸血鬼であると言われている。


「わかりました。一応頭に入れておきます」


 オレはそのまま王宮を後にした。

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