自由な朝

 魔王城の地下にある薄暗い部屋。

 周りにはさまざまな本や機械、薬、カプセルなどが置いてある。

 ここは、魔王軍の魔法研究所。


「よろしいんですね?」


 ルークがオレに訊ねる。


「やってくれ」


 覚悟を決め、オレは答える。

 オレは培養液の中にいた。


 オレ達魔族は苦境に追い込まれていた。

 魔族は人間よりも強いが仲間を作らない。

 いくら強くても、多勢に無勢では生き残れない。

 オレにはもっと力が必要だった。

 そのためオレとルークはオレを実験台にして人体実験をしていた。


「ではいきます。《錬金術》アルザム・マグナ」


 オレの身体が光輝く。


 それから、どのぐらいの時間が経っただろうか。

 数分だったか、あるいは数日だったかもしれない。


「……ついに………ついに完成しました……。これで今日からあなたはーーーです」







 目を覚ますといつもの天井だった。

 いつもと何も変わらない。

 オレは上体を起こす。


「………懐かしい夢を見たな」


 オレは夢を見ていた。

 昔魔王だった頃の夢。

 目をつむれば、今でも鮮明に思い出す。

 魔族のために自分を犠牲にしていたころのことだ。

 第二の人生を得た今、あの頃に戻りたいとは思えない。

 立場や使命などしがらみが多すぎる。

 それに比べて今はいい。

 オレは部屋を見渡す。


 ーーーーー自由だ。


「……………って、また遅刻じゃねえか!」


 感傷に浸っている暇じゃない。

 オレは急いで学校に向かった。






「アンタ、何してんの」


 授業も終わった放課後、自分の机で寝ていたらオリビアに声をかけられる。


「見てわかるだろ、休んでるんだよ」


「なんで休んでるのよ」


「おまえ………分かってて訊いてるだろ。こっちはちょっと前に殺されて死にかけたり、妨害工作防いだり、敵を襲撃したりで大変だったんだ。疲れてるんだよ」


 このことはオリビアも知っているはずなのに、わざとらしく訊いてくる。


「それで、また今日も性懲りも無く遅刻したわけね」


 やっぱり遅刻したオレへの嫌味のようだ。


「説教なら後にしてくれ。それじゃおやすみーーーーー」


「ガゼル・レイヴァルドは居るか」


 教室の扉の方から声かけられる。

 誰かと思い視線を向けると知らない人だった。


「国王様がお呼びだ。今すぐ王宮へ来るように」


 言いたいことだけ言って帰ってしまった。


 それにしても国王がオレを呼ぶなんて、オレ何かしたか?

 授業中ずっと寝てたことか?それとも遅刻した件か?


「ガゼル………アンタ、今度は何したのよ。国王様に呼ばれるなんてよっぽどのことよ」


 オリビアが心配そうな顔をこちらに向ける。


「分からない……けど……、きっと悪いことじゃないはず。ほら、オレ良い人だし」


「みんなを死んだと騙しておいて、どの口が言ってるのよ……」


「悪かったって。あれは必要なことだったんだ」


 あの時はアレが得策だったとはいえ、悪いことしたかな。

 今はそれより、国王のところに行くのが先か。

 また面倒なことに巻き込まれなければいいが…。


 オレは王宮に向かった。


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