友達
「やりたくないのにやらされて、それで終わりでいいのか?セレス」
オレは何事もなかったように立っていた。
この身体には、傷口どころか血の痕跡すら無い。
「ど・・・うして・・・?」
薄れゆく意識の中で必死に声を出すセレス。
オレは淡々とした口調で答えた。
「分身だ」
さっきまでオレが倒れていた所には、人の形をした土くれが落ちていた。
オレはセレスのそばに座り込み、手をかざした。
「今、治してやる」
オレは傷を治しながら、セレスと自分の境遇を重ねていた。
オレも昔、こいつと同じような目にあっていた。
生まれ育った環境や、周りからの無理な期待などに背中を押されて自由に意思を選択できず、後になって後悔する。
誰かに無理やり背中を押されて地獄に足を踏み入れる。
オレのような目にあっている人がいるのなら救いたい。
ここで見捨てたら、きっと一生後悔する。
裏切られてもオレは諦めない。
それが友達というやつなんじゃないだろうか・・・。
少しするとセレスは身体を起こした。
その顔はとても申し訳なさそうにしている。
「ガゼル・・・僕は・・・っ」
「謝らなくていい」
オレはセレスに言葉を言わせなかった。
謝る必要はない。こいつも今まで苦しんできたのはオレが一番よく分かっている。
「色々あったが結果的にはなにもなかったんだ。気にしなくていい」
オレは笑顔で優しく語りかけた。
「それに・・・オレたち、友達だろ」
そう、友達なら少し喧嘩するくらい当たり前のことなのだ。
このくらいのことで、友達をやめる理由にはならない。
どんなことがあっても信じて一緒にいるのが友達というやつだ。
「うぅぅっ・・・・」
セレスは俯いたまま目から涙を流して泣いていた。
その横顔は泣いているのにとても嬉しそうに見えた。
オレはしばらくの間、一言も話さず同じ部屋の中で静かに見守っていた。
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