普通を楽しむ

2人は射的訓練を終えて教室に戻ってきていた。


「ありがとうガゼル。君のおかげで2発は当たるようになったよ」


練習の後のテストでは、10発中2発命中という結果を残せている。

30分間必死になって練習した成果だろう。


「いや、オレは少しコツを教えただけだ。ここまでできたのはセレス自身の力だよ」


そう言うと、セレスの表情に陰りが見えた。


「そんなことないよ、僕の力なんて……っ」


何かを言おうとして口ごもるセレス。

そのまま黙り込んでしまった。


「どうしたんだ、なにか相談ごとがあるなら聞くけーーー」


「ガゼルっ、2回目のテストの結果はどうだった?」


オレの言葉を遮り、オリビアが話しかけてくる。


「いつも通りだ」


そう素っ気なく返すと、少し、むっとした顔になる。


「なにそれ嫌味?全部命中で当たり前っていう。アタシはやっと10発命中したっていうのに」


「へぇ、オリビアさんも全弾命中したんだ。すごいなぁ」


セレスはオリビアに話しかける。

しまった、相談ごとを訊くタイミングを逃したな。

…まあいいか、話したくないなら無理に聞き出すことでもないしな。


「あなたは確か、さっきの授業で全弾外していた…」


「あはは…。セレスだよ。セレス・アルデモンド。よろしく」


苦笑いしながらセレスは自己紹介した。


「アタシはオリビア・ハーマニー。それでこっちの子がクシェル・ダーマイス」


オリビアの隣にいたクシェルが頭を下げる。


「お前ら2人って知り合いだったっけ?」


オレは疑問に思い質問を投げかける。

この2人が話しているところは見たことがないが…。


「ああ、さっきの射的の練習中に知り合ったのよ。この子すごいわ!あなたと同じで10発命中してたのよ。それで教えてもらってたの」


「魔力制御だけは得意だったんです」


クシェルが控えめに答える。

それにしても全弾命中させるとはやるな。

オリビアもそうだが、クシェルも結構実力が高そうだ。


「みんなすごいんだね。その才能を分けてほしいくらいだよ」


セレスが自虐気味に冗談を言うと、みんな微笑した。


「セレスさんも練習すればできるようになりますよ」


「そうね。みんな最初はそんなもんよ」


「そうだね、もっと練習するよ」


他愛もない会話が続く。


……なんかいいな。こういうの…。

……普通の生活って感じだ。


オレは何気ない会話を噛みしめるように大切に楽しんでいた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る