試験

 オレは訳がわからないまま、次の筆記試験を受けた。

 …ん?なんだこれは、簡単すぎる…?

 1+1の方が難しいような簡単な問題だった。

 まさか、ひっかけ問題か?

 簡単すぎてそんな疑問が浮かんだが、あまり深読みせず解くことにした。


 最後は実技試験。

 試験官と戦い、実戦で自分の魔力をどれだけ使いこなせているかを確かめるようだ。

 オレと試験官が向かい合う。

 試験官が、自信に満ちた顔で話しかけてきた。


「次はお前か、存分にかかってこい!」


 どうやらこの試験官は、王宮魔導騎士団の団員のようで、けっこう強いらしい。


「始めっ!」


 《身体強化》

 開始早々、魔法で筋力をあげると地面を蹴り距離を一気に詰める。

 敵めがけて斬りかかる。

 それを下がってかわすと、今度はむこうが斬りかかってくる。

 オレはそれを剣で受けるとフェイントを織り交ぜ、喉笛を狙って突きを繰り出す。

 さらにそれを避けると―――――


 二人の間で激しい火花が散る。

 流石は魔法騎士団の団員、かなりの腕前だ。

 フェイントにもなかなか引っかからない。

 剣術の腕はほぼ互角といったところか。

 剣術での勝負ではらちがあかないと見るや、オレは一度距離を取る


「流石は魔法騎士団、やりますね」


「お前こそ受験生の動きじゃない、何者なんだ」


 オレは答えず、次の攻撃を仕掛ける。

 《風魔法》真空刃しんくうは

 剣を振ると風の刃が試験官を襲う。

 横にステップし見えない風の刃をかわす。


 直後、団長の足元に魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣の上に乗ると発動するように仕掛けた条件起動術式。

 炎が試験官を襲う。

 魔法陣を《解除ディスペル》する試験官。


「気づいていたぞ」


 試験官は笑みを浮かべる。

 オレも笑みを浮かべる


「残念、それは囮だ」


 前の魔法の《解除ディスペル》を起動条件にした魔法が発動する。

 空中に魔法陣が現れ、火の弾が襲う。

 それを、障壁で防ぐ試験官。


「いい線をいっていたが、ここまでのようだな」


 まぁこんなものか、とオレの底を見たような顔をする。

 オレの笑みは消えていない。

 オレは、さっきと同じ言葉をかけることにした。

 さっきと一文字だけ変えて…。


「残念、それ囮だ」


 ーーーーー直後、足元からさらに大きな魔法陣が浮かび上がる。

 一度目の魔法を《解除ディスペル》され、二度目の魔法を障壁でガードされたのを起動条件にした魔法。

 魔法陣から土が現れ、体にまとわり動けなくなる。


「ぐっ!?」


「よし、捕獲完了!」


 土にまとわりつかれて動けなくなっている試験官に近づいて声をかけた。


「悪いですね、勝ってしまって。怪我はありませんか」


「…何故だ」


 オレの顔を見て、問いかけてくる。


「最後の攻撃、障壁でガードするより、《解除ディスペル》する可能性の方が高かったはずだ。何故、障壁でのガードを起動条件にした?」


「それは貴方の魔法素質の低さに気づいていたからですよ」


 試験官は驚いていたが、オレは説明を続けた。


「戦闘において、剣術を高めるより魔力制御を高める方が効率よく強くなれる。貴方の剣術の腕はオレとほぼ互角。ならば、剣術の修行にかなりの時間を費やしたことになる。それは何故か?魔法の素質が低かったんじゃありませんか?そして、魔法素質の低い者に究極の対抗魔法である《解除ディスペル》を二度連続して使うことは難しい」


「…障壁を誘うための弱い火の弾での攻撃だったというわけか…」


「強い攻撃をしたら避けられてしまいますからね」


 オレの説明を聞いて納得してくれたようで、なるほど、と頷いていた。

 試験官はオレに歩み寄ってくると、右手を差し出してきた。


「完敗だよ」


 オレはその手をつかみとり握手する。


「ありがとうございました」


 実技試験で試験官を倒した人間は少ないらしい。

 高い評価がもらえそうだ。





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