第30話 瞬間の反撃

 円形になるとデスの掌めがけて勇者団の3人の体から小さな光の粒が漏れ出した。

 少しずつデスの掌の光が明るさを帯び始める。

 ローズはその間に少女を見るも少女は立ってはいるがローズたちのもとへと動く様子は無かった。

「ドサッ」と音を立てて勇者団の3人は地面に膝をついた。

 不意の出来事にローズは3人の顔を順々に見ていく、汗をかいて辛そうにしてはいるが呼吸はありシンたちと同じように横になっているわけでは無さそうだった。

「はあ……はあ……いいぜ、あとは任せたぜ……」

「で……ヤンス……」

「だ……よ……」

 ギルを始めとして3人は口々にギリギリ聞き取れる声で言うと地面に横になった。

 しかし、今度は目の前で倒れるまでの過程を見て取れたため、やはりシンたちとは違うとローズは判断した。

「ま〜た、任された。でも、いいわ、ローズ!」

「何?」

 と問われて何やら考え直したのか真っ直ぐだった視線を逸らして、

「…………お、おとなしくしてなさい!」

 と叫んだ。

 釈然としないながらも声の強さにいつものデスを見たローズは、

「うん!」

 と答えた。

 デスの掌の光は先程のものよりも強く、そして、片手でなく両手で光っていた。

「はあああああ!」

 ローズは今まで聞いてこなかったデスの気合に目を見開き頬を緩めた。

 長い光が収まると校舎跡に立っている者は1人も居なくなっていた。

 少女が倒れたことでローズは今までの拘束されていたかのような動きにくさが解けたように自由になった。そのまま、横になった仲間たちの安否を確認した。

 皆息をしていることから一瞬で横にされただけで命までは取られなかったことにローズは長い息を吐き出した。

「グゴゴ」と言う音に驚いて振り返るとムリドが鼻を鳴らしていた。

 また、ホッと息をつき、

「ありがとう」

 と囁くと、

「まだ、だぜ、ローズちゃん」

 というはっきりとした言葉で振り返った先にはムリドとは異なり両足で立ち、腕を組んでいるシンの姿があった。

「何で? 寝てたはずじゃ」

 ローズはシンを最初に確認した。単純に横になった順番で確認するとシンが最初だっただけだが。立っていると気づかないが皆寝息を立てていたことはローズが確認済みだった。

「俺っちの寝るモノマネをなめてもらっちゃ困るぜ、が、それより、色々と説明してしまいたいところだがもう行かないとだと思う」

 シンは言い切るとローズの腕を引っ張って見えない螺旋階段に足をかけたように円を描いて上へ駆け上がり始めた。

「え!?」

 ローズには踏めないその階段を登って行く中でローズはシンから現状分析を聞いた。

 シンが言ったように現れた少女はムイである。

 ムイが来たということはもうユリたちは手を抜くことを考えていないであろうこと。

 そうなったら地上が危険になる、まだ城へ行かないという選択肢は選べないだろう? という質問。ローズはイエスと答えた。

 そして、

「俺っちはもうバレてる。と思ったほうがいい。それに俺っちも無傷じゃない」

「…………嘘……」

「ヘヘッ」

 と笑うとシンは自らのTシャツをめくり上げた。

 そこには切り傷があった。

「でも、重症じゃ無いんじゃ?」

「確かにそう見えるかも、が、話したようにムイは俺っちたちの中で1番頭がいいんだ。これがただの切り傷かどうか」

「…………」

 ローズの体はスライムであり、そのうえ、無傷だと思われる状態だったが、生身の肉体には同じように攻撃の跡がある可能性があり、アルデンテスたちにもある可能性があるということを示していた。

「まあ、そういうことだ。足りない分は急ぎでぶつけて間に合わせるしかない」

「わかった」

「じゃ、スピード上げるぜ」

 シンは不可視の階段を駆け上がるスピードを倍以上速めうごめく黒い物体の中へと突っ込んだ。



「とうちゃーく」

「ここが?」

「そうだ」

 シンは左右を見回した。

 入り口には侵入者など気にしないというように門番のような者の姿は無かった。

「じゃ、これを」

「え、ちょ、何?」

 ローズはシンに布を被せられた。

「何これ? こんなので何になるの?」

「ローズちゃん。そりゃヒトが居たらバレちゃうから変装に決まってるじゃん」

「ああ」

 ローズは声を上げた。

 それから、自らの体を見下ろし、手をグーパーさせ、足の裏を見て、背中まで見たものの肉体の変化を感じられなかった。

「これ、本当に変わってるの?」

「見た目が変わるって言っても他人から見れば変わっているだけで自分の体を見下ろしたり、してもまあ分かんないよ」

 そう言い。

「大丈夫。変わってるから」

 と念を押すようにしてシンは言った。

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